なぶんけんブログ|奈良文化財研究所に関する様々な情報を発信します。

コラム作寶樓の最近のブログ記事

文化を通して日常と防災を考える

文化を通して日常と防災を考える

2024年3月  私たちの社会は、地域が積み重ねてきた日常が文化として色濃く根付き、各地に文化財として息づいています。しかし、自然災害がそれらを脅かし、失われつつあります。近年、災害が多発し、2024年1月1日には能登半島地震で多くの被害が出ている現実を前に、私たちの日常を守るために文化と防災を結び...

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奈良でも群馬でも

奈良でも群馬でも

2024年3月  群馬県でこれまで仕事をしてきた私ですが、今年度から奈良文化財研究所に移ってきました。旧石器時代に人々はどのように生活していたのかを研究してきましたが、その中で奈良と群馬を結ぶものに瀬戸内技法があげられます。  瀬戸内技法とは今から2万9000年前頃に現れた石器の製作技術の一種です。...

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デジタル時代における文化財防災と情報活用

デジタル時代における文化財防災と情報活用

2024年2月 <様々な機関が迅速に情報を公開する時代> 2024年1月1日夕方、能登半島地震が発生しました。国土地理院では1月2日に能登半島の空中写真を撮影し、3日には公開しました。4日には地震によって生じたとみられる斜面崩壊箇所及び土砂堆積箇所を公開、7日には空中写真判読による津波浸水域(推定)...

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古代北方騎馬民族の彩色文化

古代北方騎馬民族の彩色文化

2024年1月  ユーラシア大陸の東北部に位置するモンゴルでは、古代から遊牧を生業とする騎馬民族が栄えました。その中で匈奴(きょうど)民族は、紀元前3世紀から紀元後1世紀頃までの約400年間(日本では弥生時代)勢力を維持し、中国北部にまで影響を及ぼす巨大な勢力として発展をとげました。遊牧民族は、頻繁...

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古代の旅を追体験する

古代の旅を追体験する

2024年1月  飛鳥~平安時代、特に律令期を中心とした時代の一般の人は、基本的に土地に縛られた生活をしていたと考えられています。しかし、彼らも時には長距離を移動することがありました。一例としては、各地の特産品などの税物を都に運ぶための旅です。荷物は人が担いで、歩いて都まで運びました。また、運搬役に...

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石の器をつくる

石の器をつくる

2023年12月  私の研究対象は石器です。西アジア新石器時代の打製石器や、縄文時代の北陸地方石製漁撈具の製作技術についての研究を行っています。石器の作り方や使い方など、人がどのようにものづくりを工夫し環境に適応したかに興味があるので、それらを理解するために製作実験を行うことがあります。  実験結果...

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水路をのぞけば

水路をのぞけば

2023年12月  農山村の景観やくらしを調査する際、用水路に着目することが多々あります。農村に張り巡らされた水路網を記録して田んぼを開拓してきた歴史を見いだしたり、独特な水の使い方に地域固有のくらしの作法を見つけたり。水路はさまざまなことを教えてくれます。  鳥取県智頭町では、水路を引き込んで設け...

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デジタル技術の進化と文化財カルテ

デジタル技術の進化と文化財カルテ

2023年11月  私は今年の4月に奈良文化財研究所、文化財防災センターへ着任しました。文化財情報を担当しており、文化財のデジタルデータ化と、データを活用するためのシステム提案が主な業務になります。前職では医療分野のシステムエンジニアとして、病院薬剤師が使う医薬品のソフトウェアやデータベースの開発に...

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遺跡に刻まれた災害の爪痕2

遺跡に刻まれた災害の爪痕2

2023年11月  以前(2019年4月)このコラムの中で、平城京跡から発見された過去の地震による、地割れや液状化に伴った砂脈や噴砂の痕跡について紹介させてもらいました。そこで触れた、全国の発掘調査で発見される様々な災害の痕跡情報を収集して、「いつ」「どこで」「どのような」災害が、「なに」によって発...

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風呂は風呂でも石の風呂

風呂は風呂でも石の風呂

2023年10月  「サウナでととのう」という言葉を耳にしたことはありませんか?「ととのう」とは、2000年代以降のサウナブームとともに使われ始めた言葉で、銭湯などでサウナ(熱気浴や蒸気浴)と水風呂を交互に利用する「温冷交代浴」をおこなうことで得られる爽快感や恍惚感といった感覚を示す造語です。  さ...

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建築の歴史の証言者

建築の歴史の証言者

2023年10月  古い建築において、建築年代はその建築を理解する上で重要な情報です。年代を判断する方法には様々なものがありますが、最も有力な指標の一つとして、棟札と呼ばれる札があります。棟札は木製が多く、建物の造営や修理の際、工事の経緯や年月日、建築主や工匠などを記し、屋根裏の部材に釘などで打ち付...

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ミゾミゾ

ミゾミゾ

2023年9月  どの業界にもいわゆる「業界用語」はあるものですが、60年の発掘調査の歴史をもつ奈文研にも「奈文研用語」といえるものがあります。みなさんは「ミゾミゾ」という言葉を聞いたことがありますか?  「ミゾミゾ」はいわゆる「耕作溝」です。奈良盆地の平野部で発掘調査をすると、幅・深さともに30c...

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未然に防ぐ、事前に備える

未然に防ぐ、事前に備える

2023年9月  突然ですがみなさんは、健康に気をつけていますか?あまり関心がないなぁという方も、予防医療や予防医学という言葉を聞かれたことはあるのではないでしょうか。これは、病気にならないようにする、すなわち病気を未然に防ぐことや、早期に病気を発見して、早期治療に取り組むことなどを指します。このよ...

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かりうち公式ルールができるまで

かりうち公式ルールができるまで

2023年8月  2022年11月に、奈文研HPにて「かりうち」公式ルールを公開しました。 かりうち(樗蒲)とは、奈文研の調査研究により出土遺物と『万葉集』、現代韓国のユンノリという民俗遊戯を総合的に検討し、現代によみがえったボードゲームのことです。古代日本では禁止令が出されるほど広く流行していたこ...

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草原の国のお姫さまのご利益

草原の国のお姫さまのご利益

2023年8月  中央アジアに位置するカザフスタンは、日本の約7倍の国土面積をもつ広大な国で、いにしえより様々な文化が盛衰を繰り返した地です。私は2019年度から、ご縁があってこの地での調査研究や国際協力事業に携わっています。今回紹介するのは、そのカザフスタンでも良く知られた遺跡、西カザフスタン州に...

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考古学の歌と奈文研

考古学の歌と奈文研

2023年7月  「考古学」・「歌」というワードを聞くと、遺跡から出土した楽器の研究の話なのかと思われる方もいるのではないでしょうか。今回は少し視点を変えて、考古学の世界で歌われていた(現在も歌われている)歌についてご紹介したいと思います。 町を離れて野に山に 遺跡求めて俺たちは夕べの星見てほのぼの...

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青色が真っ黒に?―壁画の技法と変色のはなし―

青色が真っ黒に?―壁画の技法と変色のはなし―

2023年7月  壁画の制作技法で代表的なものに、フレスコ技法とセッコ技法があります。フレスコ技法が、下地が乾かないうちに水で溶いた色材を塗布するのに対し、セッコ技法では、下地が乾燥したあとに接着剤(膠や卵など)を用いて塗布します。地域によってもどちらの技法が使われるか異なり、西洋の場合はフレスコ技...

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名は体を表わす?

名は体を表わす?

2023年6月  加曽利貝塚に三内丸山遺跡、埼玉古墳群に平城宮跡。国の特別史跡として多くの方が親しみ、中には世界遺産として世界に名を轟かせるこれらの遺跡。ところで、これらの遺跡の「名前」がどうやってつけられているかご存じでしょうか。  現在一般的なのは遺跡が所在する地名を遺跡名とする方式です。例えば...

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櫛の話

櫛の話

2023年6月  櫛(くし)の歯って何本やと思う?  先日、無邪気に問われました。実は謎かけ。なかなか面白いのですが、ここは奈良文化財研究所。まずは、櫛の歴史をお話しましょう。  櫛は化粧道具で、頭髪を手入れする梳櫛(すきぐし)や解櫛(ときぐし)、飾りとしての挿櫛(さしぐし)などいくつかの用途があり...

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積み重ねる時間

積み重ねる時間

2023年5月  ひょいと人生を超える時間の中で文化財は護り伝えられています。なかでも埋蔵文化財(遺跡や遺物)は私たちの身近にあるので、発掘調査現場を目にされた方も少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。発掘調査は考古学的な手法を駆使しておこなわれ、しばしば歴史を塗り替えるような発見がにぎやかに...

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考古学者の道具箱

考古学者の道具箱

2023年5月  人類学者の赤澤威さんは「縄文人の道具箱」という表現を使って、縄文時代の遺跡から出土した石器や漁具のセットに地方差があることを説明しました(「日本の自然と縄文文化の地方差」『人類学-その多様な発展』日本人類学会編、1984年)。  それでは、過去の歴史を調査している現代の考古学者の道...

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遊牧民の生活痕跡

遊牧民の生活痕跡

2023年4月  遊牧民というと、皆さんどのようなイメージをお持ちでしょうか。家畜とともに遊動する自律的な生活をおこなう、固定した居所をもたない民、といったところでしょうか。また最近では、一定の場所で物事を行わない人を「ノマド」などと言ったりします。このように、自由度が高いライフスタイルで痕跡をあま...

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地形と道路にみる西大寺の名残

地形と道路にみる西大寺の名残

2023年4月  奈良から京都・大阪、そして平城宮跡資料館へ行くときは、近鉄の大和西大寺駅が大変便利で、私もよく利用しています。近年、大和西大寺駅周辺で再整備が進んでいますが、駅のすぐ西には、奈良時代後半に称徳天皇の発願によって建立された西大寺の伽藍が広がっていました。  現在の西大寺は、鎌倉時代以...

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古い建物、「ぐるぐる」

古い建物、「ぐるぐる」

2023年3月  古い建物を見よう、と思い立ったら、まずは国宝・重要文化財といった、華やかな肩書に心惹かれるのが常というものではないでしょうか。ところが大多数の日本人にとって、そういった建物界のスーパースター達は、ともすれば何か月も前から旅行の計画を立ててやっと会いに行くものです。  確かに国宝・重...

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ところ変われば箕 (み)も変わる? カンボジアの発掘道具

ところ変われば箕 (み)も変わる? カンボジアの発掘道具

2023年3月  奈良文化財研究所は様々な国や地域と共同で文化財の保存修復や技術協力・研究調査を通じた事業を行っていますが、カンボジアとは30年来のお付き合いがあります。現在、奈文研ではアンコール遺跡群の中の西トップ遺跡の調査修復プロジェクトを2002年から行っています(参考:なぶんけんブログ「アン...

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キトラ天文図の金箔をどのように丸形にしたか?

キトラ天文図の金箔をどのように丸形にしたか?

2023年2月  立春から雨水になり、暦の上では春になった夜空を見上げると、まだ冬の代表星座であるオリオン座が見えています。オリオン座といえば、キトラ古墳壁画天井天文図(以下、キトラ天文図)にも見られることはご存知でしょうか。キトラ天文図の参宿(しんしゅく)という中国式星座は、オリオンの体部にあたり...

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面を取り戻す

面を取り戻す

2023年2月  東日本大震災では、様々な文化財が被災しました。そうした文化財の一つに無形民俗文化財があります。地域に伝わるお祭りや芸能などを対象とした文化財です。東北地方太平洋沿岸部は民俗芸能と呼ばれる、地域の芸能が多く伝えられていることで知られていました。東日本大震災の津波により、その道具が多数...

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達磨さんのおはなし

達磨さんのおはなし

2023年1月  「日本最古」には事欠かない奈良の地だが、王寺町達磨寺の木造達磨座像【写真1】は、日本最古はよそに譲って、「日本で二番目(ぐらい)に古い達磨像」という、なかなかに奥ゆかしい地位を主張している。  この達磨座像にはその由来が書き込まれており、永享2年(1430)の年紀や、造像に時の将軍...

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ガラスの「カタヌキ」

ガラスの「カタヌキ」

2023年1月  みなさんは駄菓子の「カタヌキ」をご存じでしょうか? 板状の砂糖菓子に動物や乗り物などのデザインの型が押されていて、針できれいにくり抜いて遊ぶあれです。かつては紙芝居のお供として水飴とともに定番のお菓子だったそうで、縁日の屋台などで遊んだ方も多いのではないでしょうか。似たようなお菓子...

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ラクダとカエル

ラクダとカエル

2022年12月  木造の建築は、天然の素材を様々なかたちに加工して、組み合わせて造られています。細部のかたちは、建築の見せ場であり、時代や地域の特徴がよくあらわれます。奈文研が建造物調査に取り組んでいる高野山の壇上伽藍に建つ国宝不動堂は、緩やかな勾配の檜皮葺の屋根をもつ鎌倉時代の優美な建物です。細...

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実測道具にも歴史あり

実測道具にも歴史あり

 奈良文化財研究所設立70周年・平城宮跡史跡指定100周年の節目の年に奈良文化財研究所野帳が誕生しました。野帳の表紙には平城宮跡第1次調査の図面や出土瓦と合わせて、奈文研が発掘調査で使用してきた道具や記録簿などをレイアウトしています。そこで今回の作寶楼では、奈文研オリジナルの実測道具を紹介したいと思...

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1922-1952-2022

1922-1952-2022

2022年11月  平城宮跡の銀杏の紅葉も盛りを過ぎ、師走の足音も聞こえてきました。今年の春から、平城宮跡の史跡指定100周年と奈文研70周年のメモリアルイヤーに合わせて様々な企画やイベントを行ってきましたが、そろそろフィナーレです。  春には、平城宮跡資料館では春期特別展として平城宮跡史跡指定10...

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どこが違う?大極門と朱雀門

どこが違う?大極門と朱雀門

2022年11月  2022年3月、平城宮跡に大極門(第一次大極殿院南門)が復原されました(図1)。この建物の全体から細部までの形式は、奈文研が国交省から委託を受け研究した復原案がベースとなっています。  大極門は、第一次大極殿(2010年復原)を囲う施設(第一次大極殿院)で、南正面に開く門です。建...

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古いアルバムの中の

古いアルバムの中の

2022年10月  皆さんのご家庭にもあるでしょう。古いアルバムが。几帳面な方だとアルバムに貼ってある写真の下に「何月何日、どこそこで誰と誰が写っている」などタイトル的に貼っておられる方がいらっしゃると思います。貴重な思い出の写真を子どもたちに受け継いで、いつかアルバムをめくって思い出に浸ることがあ...

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水風呂のあとは、じっくり薬湯めぐり

水風呂のあとは、じっくり薬湯めぐり

2022年10月  奈良文化財研究所平城宮跡資料館では、例年秋に木簡の実物を展示する「地下の正倉院展」を開催しており、今年もまもなく展示が始まります(令和4年度 会期:10月15日~11月13日)。この地下の正倉院展では、普段はなかなか見ることのできない、保存処理前の水浸け状態の木簡も展示される予定...

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似ずして是なるもの

似ずして是なるもの

2022年9月  従来の考古学では、「似て非なるもの」を恐れるあまり、部分的な類似性にとどまるような現象には踏み込んだ評価を与えずに、同笵鏡や同笵瓦のように、高いレベルで共通したり一致するものを「是」とし、それを追究する方向性が重視されてきたように思います。ところが、少し前から私は、類似度はさほど高...

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夏酒

夏酒

2022年9月  数年前、平城宮跡の復元朱雀門から南西すぐの場所で行った発掘調査で、不思議な言葉が記された木簡が見つかりました(『平城宮発掘調査出土木簡概報』45、16頁下段(20)、【写真1・2】)。    ・夏酒    ・□□      縦(32)㎜・横14㎜・厚さ4㎜ 081型式  「夏酒」と...

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平城宮跡史跡指定100周年記念ロゴ制作の裏側

平城宮跡史跡指定100周年記念ロゴ制作の裏側

2022年8月  今年、令和4年(2022)は平城宮跡が大正11年(1922)10月12日に国の史跡に指定されてから、100周年となる節目の年です。昭和27年(1952)3月29日に国の特別史跡となってから70周年でもあります。  文化財保護法の前身である、史蹟名勝天然紀念物保存法が大正8年(191...

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産婆の忘れられた物語

産婆の忘れられた物語

2022年8月  一九三五年三月九日、『朝鮮日報』に「阿峴里の嬰児屍は日本内地人?」という題で次のような記事が掲載されます。  去る五日府〔京城(ギョンソン)府―筆者註〕外阿峴里(アヒョンリ)の便所で発見された嬰児の死体は解剖した結果、他殺遺棄に判明され、その間龍山(ヨンサン)警察署では阿峴里と孔徳...

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鯛で金を磨く

鯛で金を磨く

2022年7月  わたしには、どうしても手に入れたいものがありました。それは、「鯛の歯」です。研究の一環でおこなっている彩色復元で、絵具の配色や色調を試す際、髪の毛ほどの細さに切った金箔で文様を描く截金(きりかね)【写真1】の高度な技法を再現するために、代用の金泥に使う鯛の歯がどうしても必要でした。...

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文化財とPCR

文化財とPCR

2022年7月  2019年末から続くコロナ禍の中で、「PCR」という言葉をよく耳にするようになったのではないでしょうか。鼻の粘膜や唾液などを採取し新型コロナウイルスへの感染の有無を判断する、いわゆる「PCR検査」として聞き覚えのある方も多いと思います。実はこの「PCR」と呼ばれる技術は、文化財分野...

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雨天中止は何回か

雨天中止は何回か

2022年6月  いよいよ本格的な梅雨の季節となりました。  雨が降ると、どうしても屋外での活動が制限されてしまいます。私たちの主な仕事の1つである発掘調査も、雨の中ではできません。  古代も事情は同じで、屋外でおこなう行事は、雨天の場合は中止したり、晴れの時とは異なる雨用の設営・進行で対応していま...

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「遺跡の数」から見た奈良県

「遺跡の数」から見た奈良県

2022年6月  奈良文化財研究所は今年で創立70周年を迎えますが、その間、実に数多くの遺跡を発掘してきました。しかし我々が発掘した遺跡は、奈良県全体から見るとごく一部の遺跡であり、その他にも各自治体等が発掘してきた遺跡は無数に存在しています。それでは奈良県全体、ひいては全国にどれほどの数の遺跡が存...

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幻の「へんつき」

幻の「へんつき」

2022年5月  平城宮跡から出土した習書木簡の中には、同じ部首の漢字を取り合わせて書いたものがあります。なかには、写真1のように、おそらく偏(へん)を先に書いて、その隣に旁(つくり)を足したのではないかと推測されるものもみられます。当時の官人たちがどのように漢字を練習していたか、その情景がありあり...

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明日香村の風景のうつりかわり

明日香村の風景のうつりかわり

2022年5月  わたしは普段、奈文研で文化財の写真を撮る仕事をしています。  ここ数年、飛鳥資料館との関わりで、明日香村の風景をたくさん撮影してきました。四季折々の景色や、各集落をまわってその土地の特徴を画像として記録します。飛鳥を研究のフィールドにしている研究員に同行し、魅力的な場所をたくさん教...

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唇に墨をぬる

唇に墨をぬる

2022年4月  みなさんは高松塚古墳壁画に描かれている人物の顔をじっくりと観察してみたことはありますか。  7世紀末から8世紀初めにつくられた高松塚古墳の壁画に描かれる女子群像は「飛鳥美人」としても有名ですが、そのぽってりとした唇はとても印象的です【図1】。  この唇は一見、墨の輪郭線と赤い顔料で...

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焼肉プレートで作れる焼き付け漆

焼肉プレートで作れる焼き付け漆

2022年4月  春とはいえまだまだ寒いですね。年度末の繁忙期も乗り切ってほっとしたこの時期、仕事が終わった後に焼肉を食べたくなる時がありますね?コロナ感染症蔓延の事情で、外食がなかなか難しい今、我が家のコタツに足を入れ、焼肉プレートで自家製焼肉を楽しむのも悪くないですね。実はそのプレートで肉と野菜...

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さびない文化財はオーパーツ?

さびない文化財はオーパーツ?

2022年3月  私がお世話になっている美容師さんは古代のミステリーや歴史ロマンといった話題が好きで、髪型を整えてもらいながら文化財の話をすることがあります。ある時、「お仕事でオーパーツに出会ったことはないんですか?」と冗談交じりに聞かれたことがありました。ちなみに、オーパーツ(OOPARTS)とは...

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ふたつのトンボ玉

ふたつのトンボ玉

2022年3月  1990年香川県満濃町(現・まんのう町)の安造田(あそだ)東3号墳から特殊なトンボ玉が出土しました(写真1)。このようなデザインのトンボ玉は日本列島では類例がなく、発見当初から大変注目されていました。しかしながら、当時の技術では小さなガラス玉の詳細な分析は難しく、科学的な調査は行わ...

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小説に描かれた古代の食―『与楽の飯』のカツヲイロリ

小説に描かれた古代の食―『与楽の飯』のカツヲイロリ

2022年2月  第165回直木賞(2021年7月)受賞作家・澤田瞳子氏の小説『与楽の飯―東大寺造仏所炊屋私記』(光文社文庫)は、東大寺の大仏造営に借り出された人びとの人間模様を描いています。ときは奈良時代。仕丁として平城京にやって来た主人公・真楯は、東大寺造仏所に配属されました。日々の仕事はきつい...

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鴟尾を屋根にどうのせるか?

鴟尾を屋根にどうのせるか?

2022年2月  鴟尾(しび)とは、宮殿や仏殿などの瓦葺き屋根のてっぺんに、シャチホコと同じく大棟(おおむね)両端にのる飾りです。2010年に復原された平城宮第一次大極殿、来月(2022年3月)に竣工する予定の南門にも、金色に輝く金銅製の鴟尾がのっています。皆さんには馴染みが薄いかもしれませんが、今...

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古代日本のトラ・虎・寅

古代日本のトラ・虎・寅

2022年1月  2022年は寅年です。「トラ」と聞いてみなさんは何をイメージしますか?プロ野球の某人気球団の名前とマスコット、魔法瓶を作る会社の社名、生まれも育ちも葛飾柴又の男が活躍する映画の主人公の名前、などなど、日本に野生の虎は生息していないにもかかわらず、私たちの周りには様々な「トラ」があふ...

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平城宮第一次大極殿院南門前の射礼について

平城宮第一次大極殿院南門前の射礼について

2022年1月  毎年1月中旬に京都の蓮華王院本堂、すなわち三十三間堂前で「大的全国大会」が行われ、晴れ着の新成人が距離60m先の遠的を狙い、矢を放ちます。三十三間堂の軒下約121mで矢を射通す、江戸時代に盛んだった通し矢に因む年中行事です。  弓術に関わる年中行事は、君臣の秩序と臣下の服属を表現す...

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明治・大正時代のMade in Japan

明治・大正時代のMade in Japan

2021年12月  21世紀の現代では、さまざまな日本製品が世界中に輸出されて使用されています。私は普段、東南アジアのカンボジアをフィールドにして調査をおこなっていますが、思いがけず日本の製品に出会うことがありました。  ある日、カンボジアのコンポン・チュナン州の文化財担当者の方から、「みなさんの調...

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ぬりえで楽しむ文化財

ぬりえで楽しむ文化財

2021年12月  「歴史」や「文化財」と聞くと、勉強するもの・難しいもの、というイメージがありませんか?でも、もっと気軽に歴史や文化財に触れる機会が増えたら、私達の暮らしも、もっと豊かで楽しくなるのではないか?そんな思いから、近年、奈良文化財研究所では、イベントの開催やグッズの企画開発に取り組んで...

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文様のはるかな旅路

文様のはるかな旅路

2021年11月  昨今、ナツメヤシの果実を干したデーツが健康や美容によい食べ物として注目されているようです。実際、輸入食品を扱うお店にはいろいろな種類のデーツが並んでいるのをみかけます。デーツの味はあんこや干し柿に似ていて食べやすく、満足感もあるので、罪悪感の少ないヘルシーなおやつとして、私も大変...

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考古生化学者のお宝さがし ~理想の現生試料を求めて!~

考古生化学者のお宝さがし ~理想の現生試料を求めて!~

2021年11月  考古生化学という研究分野をご存じでしょうか。考古生化学は、遺跡や遺物の中から当時の生物に由来する、顕微鏡でも見ることのできない極めて小さな生体物質(DNA、タンパク質、脂質など)を探し出して調査研究する分野です。あらゆる物質に共通することですが、長い間土に埋まっていると変化してし...

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木を見て文字も見る

木を見て文字も見る

2021年10月  「木を見て森を見ず」は、物事の一部分や細部にとらわれて、全体を見失うことを言うことわざです。平城宮跡からも大量に出土する木簡は、「木」に「文字」が書かれているわけですが、みなさん「文字」には関心を寄せるものの、「木」にはあまり注目してくれません。冒頭のことわざをもじると、「木を見...

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身近にある「昔からあるもの」

身近にある「昔からあるもの」

2021年10月  コロナ禍が続く中、しばらく帰省ができず、実家とはビデオ通話で連絡を取り合っています。画面越しとはいえ顔を見て話ができて、便利な時代になったなぁと実感すると同時に、もっと近くに住んでいたら直接会えるのにとも思います。思えば、私の実家は関東で、兄も私も県外へ出て生活をしています。さら...

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石のあかぎれ

石のあかぎれ

2021年9月  長引くコロナ禍の中、昨年の冬は例年以上に手を洗う頻度が増えたため、手のあかぎれに悩まされました。いまさらではありますが、冬の外気は湿度が低いため、私達の肌から外気によって水分が奪い取られてしまうことがあかぎれの原因です。このように、水分が外気によって奪われてしまうことで起こるトラブ...

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古代人の指紋

古代人の指紋

2021年9月  土器や埴輪などを観察し、触っていると、自分の指が器面に妙にフィットするのを感じることがあります。土器製作時に古代人によって残された指の痕跡と、自分の指が合致するからです。さながら古代人と手を合わせたかのように感じられるわけですが、その中でもまれに指紋が残される場合があります。  こ...

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キトラ古墳 十二支の服装

キトラ古墳 十二支の服装

2021年8月  明日香村に所在するキトラ古墳の壁画には、四神や天文図の他に、十二支の像が描かれているのをご存知ですか。この十二支は頭が動物で、身体は人間という姿をしており、右手に武器を持つのが特徴です【図1】。被葬者を邪悪なものから守護する目的で描かれたと考えられており、石室の東西南北の壁面に3体...

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遺跡とMinecraft

遺跡とMinecraft

2021年8月  Minecraft(マインクラフト)はビデオゲームの1つで、サバイバル生活や洞窟探検に挑んだり、狩猟採集・牧畜・農業・採掘に勤しんだり、立体的なブロックを自由に配置して家々を建築したり、道路や街灯を整備して街づくりに熱中したりと、好きなように世界を楽しむものです。  大人の皆さん、...

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展示されてみました

展示されてみました

2021年7月  2019年に飛鳥資料館で春期特別展『骨ものがたり-環境考古学研究室のお仕事』を開催しました。「普段は見ることのできない研究の舞台裏を知ってもらうことで、歴史や考古学を身近に感じてもらいたい」というコンセプトのもと、研究成果よりも研究過程を見せることを重視した展示でした。  企画打ち...

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キトラ天文図の観測年代に関する「謎」

キトラ天文図の観測年代に関する「謎」

2021年7月  飛鳥にある壁画古墳・キトラ古墳の石室の天井には、中国式の円形星図が描かれています。この図をここでは「キトラ天文図」と呼ぶことにしましょう。このキトラ天文図には、360個ほどの星を朱線で結んだ74座の星座が確認できます。これらの星座は、現代人には馴染みの薄い中国の星座ですが、図に描か...

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平城宮佐伯門付近における遺跡の環境整備

平城宮佐伯門付近における遺跡の環境整備

2021年6月  平城宮跡の隣にある奈文研本庁舎の場所は、平城宮の西の出入口であった佐伯(さえき)門の正面にあたります。この門の外には一条南大路と西一坊大路という大きな道路が通っており、門から宮内に入ると、馬を管理した馬寮(めりょう)という役所があったと考えられています。この門は今から50年前に一風...

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鮭と鱒の話

鮭と鱒の話

2021年6月  サケ(鮭)は日本人が好んで食べる魚のひとつですが、その利用はいつ、どのようにはじまるのかはあまり知られていません。マス(鱒)という魚もいます。生涯の一時期、海に降りるものをサケ、一生を通じて淡水生活を送るものをマスと呼ぶようですが、海に降りたサクラマスなどのようにその区別は日本語で...

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ドアの無いヘリコプター

ドアの無いヘリコプター

2021年5月  ヘリコプターで空中散歩。  なんと優雅な響きを持つ言葉でしょう。  写真室で仕事をする筆者は、毎年八尾空港からヘリコプターに乗って遺跡等の撮影をします。写真は被写体の位置や形状を写し取るのが得意です。例えば、発掘調査は地面の下にある遺構や遺物を確認しながら、地形の起伏を巧みに利用し...

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コロナ禍における博物館の新しい情報発信のあり方

コロナ禍における博物館の新しい情報発信のあり方

2021年5月  新型コロナウイルスの感染拡大を受け、最初の緊急事態宣言が発令されてから早くも1年が経過しました。収束する気配は一向になく、変異株の流行によって第4波も懸念されています。昨年の今頃は来年には落ち着いているだろうと安易に考えていましたが、まだまだ予断を許さない状況が続いています。  新...

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「産廃」の考古学-いにしえのものづくりを探求する-

「産廃」の考古学-いにしえのものづくりを探求する-

2021年4月  「産廃」、すなわち「産業廃棄物」とは、『広辞苑』(第六版)では「事業活動によって生ずる廃棄物」とあります。私たちが発掘調査をすると、このような過去の時代の「産廃」ともいえる考古遺物に出会うことがあります。たとえば、鉄鍛冶がおこなわれた鍛冶遺跡を発掘すれば、鉄器の鍛冶の工程で排出され...

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アンコール・ワットを訪問した日本人

アンコール・ワットを訪問した日本人

2021年4月  文化財を扱っていると、調査が一段落した後もずっと、頭の片隅に残り続けることがあります。私の場合、そういう記憶はたいてい、「あれが最良の処置だったのだろうか」と、心に引っかかっている場合です。  図1は、カンボジアのアンコール・ワットの柱に書いてある銘文です。皆様はこれをどう読みます...

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鳳凰文鬼瓦の復元案

鳳凰文鬼瓦の復元案

2021年3月  平城宮からは、これまでに3回の発掘調査(平城第11次・139次・429次調査)で、鳳凰の文様を施した鬼瓦が出土しています。このうち、第11次調査で出土した破片2点は最も残りが良く、鳳凰の上半身の様相がうかがえる重要な資料となっています。この破片は、1960年代に欠損部分を補填して復...

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木造住宅の柱間隔

木造住宅の柱間隔

2021年3月  みなさんは自分の家の柱の間隔を測ったことがあるでしょうか。最近の木造住宅では、柱が壁の中に隠れてしまうので測ることができないかもしれませんが、柱がみえる和風住宅や民家で考えてみましょう。和風住宅の柱間隔は、1つの住宅では一定の寸法を基準にしています。  では、柱間隔とは具体的に柱の...

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古代の疫病・天災とデマ

古代の疫病・天災とデマ

2021年2月  新型コロナウィルスの感染拡大が世界中で歯止めがかからなくなってきた2020年の初夏、驚くようなニュースを目にしました。欧米で5Gの携帯電波がウィルスの感染を加速するとの噂を信じた人が、携帯電話の基地局を破壊する事件がおこったという報道でした。疫病や天変地異が引き起こす社会不安には、...

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慶応二年(1866年)、大坂城に怪獣現る!

慶応二年(1866年)、大坂城に怪獣現る!

2021年2月  江戸時代には、瓦版と呼ばれたニュースを載せた印刷物が巷に出回っていました。この瓦版、現在の新聞などとは違い、噂や怪異などの出来事についても盛んに取り上げられていました。例えば、昨今の疫病流行によって注目を浴びているアマビエも、もとは瓦版の一種に掲載されていたものです。2020年度に...

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船をつなぐ石

船をつなぐ石

2021年1月  いつの時代でも船というものは、係留の際に潮に流されないよう、ロープや錨で固定する必要があります。しかし、中近世には、現代のような整備された港湾やコンクリートや鋼鉄製の杭などありませんので、自然地形を活かして係留しました。実際、戦国時代の水軍の拠点であった愛媛県の能島城や来島城では、...

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ナツメのはなし

ナツメのはなし

2021年1月  みなさんはナツメ(棗)を食べたことがありますか。赤い楕円形の実で、干したものが薬膳料理などで使われますが、普通のスーパーではまず見かけないと思います。  ところが、岐阜県高山市を訪れた際に、飛騨ではナツメを食べる風習があると聞きました。庭先によく植えられていて、秋になると果実を生で...

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ひかりで拓本をとる

ひかりで拓本をとる

2020年12月  文字や図像は筆と墨を用いた色情報で表現されるだけではなく、石や金属の表面を加工して凹凸で表現されることがあります。これは金石文と呼ばれ、土器や木器、金属器など材質を問わず、石碑や仏像、梵鐘、通貨、レリーフ、刀剣などの様々な文化財に見ることができます。  拓本は、この金石文など対象...

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都市社会の崩壊

都市社会の崩壊

2020年12月  都市が廃墟と化す。まるで近未来SFに出てきそうな話ですが、人類史上、実際に起こった出来事です。今回は、現在の状況をみているとつい頭をよぎってしまう、この物騒な出来事を紹介します。  私が研究対象としている西アジア地域では、遅くとも前4千年紀後半にはすでに黎明期の都市社会が成立して...

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西安麺紀行

西安麺紀行

2020年11月  最近、研究所の同僚が、奈良時代に小麦から作った手延べ麺を食べるのに使用した器の研究成果を発表しました(森川実「麦垸と索餅」『奈文研論叢』第1号、2020年)。日本の主食は古来から米である、というイメージに新たな光を当てました。日本の麺類が奈良時代まで遡るとなると、本場中国ではどの...

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日本古代の

日本古代の"男同士の絆(ホモソーシャリティ)"

2020年11月  日本古代宮廷の「男同士の絆」を研究しています。ホモソーシャリティと呼ばれもする、男同士の親密な関係性が、日本古代の史料にどんな風に出てくるのかが研究の最初でした。研究テーマとしては、結構無謀なのですが、実際に史料を読んでいくと、意外なほど記述が見つかります。  このホモソーシャリ...

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カザフスタンで蘇に出逢う

カザフスタンで蘇に出逢う

2020年10月  今春、新型コロナウイルス感染症の影響で、学校給食の牛乳が行き場を失ってしまった、というニュースをお聞きになった方も多いかもしれません。そんな中、自宅でも簡単につくれる乳製品として、静かなブームを呼んだものがありました。それが、「蘇(そ)」です。蘇は、奈良時代から平安時代にかけて、...

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奈良時代の

奈良時代の"あの世"事情

2020年10月  幼いころに「嘘をつくと閻魔(えんま)様に舌を抜かれるぞ!」なんて、1度くらいは言われたことがあるのではないでしょうか。閻魔様はあの世の裁判官です。裁判官は閻魔様を含めて10人、それを「十王(じゅうおう)」と呼びます。そして、十王の裁判を受けて極楽往生(ごくらくおうじょう)するのか...

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平坦で楽な道

平坦で楽な道

2020年9月  平城京の西北隅には、南北約270m東西約1.6㎞の張り出し部分があり、北辺坊と呼ばれています。北辺坊は、奈良時代後半の西大寺造営にともない、広大な寺地を確保するために、京域を北側に拡大して設定されたとみられています。その故地は、近鉄大和西大寺駅の北方とその北西にあたり、南北は西大寺...

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中国古代の郵便事情 ―上有政策,下有对策―

中国古代の郵便事情 ―上有政策,下有对策―

2020年9月  およそ2000年前の中国には、国営郵便局が設置されていました。古くは始皇帝時代の出土木簡から、その郵便事情をうかがい知ることができます。今回は、漢代後期の興味深い事例を紹介します。 ●2000年前の郵便伝票  現代日本の日常生活で目にする郵便伝票のようなものが、中国甘粛省の砂漠から...

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復元鬼瓦のバージョンアップ

復元鬼瓦のバージョンアップ

2020年8月  平城宮跡内を走る近鉄電車の車内から眺める朱雀門や大極殿は、奈良ならではの風景でしょう。でも、少し前から大極殿の手前(南側)に大きな覆屋がそびえ立っています。この覆屋は2019年に始まった大極殿院南門の復元工事のためのものです。朱雀門(1998年復元)、第一次大極殿(2010年復元)...

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法華寺境内の庭園群

法華寺境内の庭園群

2020年8月  平城宮跡のすぐ東に位置する法華寺は、光明皇后が父・藤原不比等の邸宅を「宮寺」に改めたことに始まる尼門跡寺院です。近世には「氷室御所」とも称され、現在の本堂の北西には歴代門主の住まう「御殿」が営まれました。  この「御殿」の中心的な建物である客殿(県指定文化財建造物)は、寛文13年(...

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歴史や文化財の魅力を伝えたい!

歴史や文化財の魅力を伝えたい!

2020年7月 考古学専門ではないからこそ、わかりやすく伝えられる  飛鳥資料館や奈良文化材研究所といえば、考古学のイメージが強いかと思いますが、考古学以外にも様々な分野の研究者が協力して調査・研究を進めています。  私は飛鳥資料館で学芸業務をしていますが、専攻は考古学ではなく「文化遺産マネジメント...

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オンラインデータベースの翻訳

オンラインデータベースの翻訳

2020年7月  奈文研のホームページでは、『木簡庫』や『全国遺跡報告総覧』など、数多くのオンラインデータベースが公開されています。これらのデータベースの一部は日本語以外の言語にも対応しています。今回はオンラインデータベースをどのように多言語化対応させるのか見てみましょう。  データベースは基本的に...

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「生」の食品と加工した食品

「生」の食品と加工した食品

2020年6月  「生(なま)」の対義語は「加工」です。でも、古代において煮たり焼いたり蒸したり漬けたりした食品をぜんぶひっくるめて「加工」食品とは言いません。荷札・付札木簡などを眺めていると調理した食品にはその加工法が記されていることが多いように思います。  アワビはさまざまな加工をして都にもたら...

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ヤリガンナ木屑の行方

ヤリガンナ木屑の行方

2020年6月  みなさんは、昨年10月におこなわれた第一次大極殿院南門復原整備工事の特別公開には足を運ばれましたか。私も足を運び、職人さんが木材を削るところを見学し、またVRシアターでは完成した南門の姿を空中から楽しみました。  中でも、宮大工実演のコーナーでは、ヤリガンナという大工道具で木材を削...

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古代都市平城京の疫病対策

古代都市平城京の疫病対策

2020年5月  律令制度に基づく国家づくりが軌道にのり、平城京が国の中心として繁栄しつつあった天平7年(735)。天然痘とみられる疫病が、大宰府管内で流行し始めました。翌年には一旦、収束したともみられていますが、天平9年(737)4月に再度、大宰府管内で流行がはじまると、7月には平城京をはじめ畿内...

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神社か?寺院か?

神社か?寺院か?

2020年5月  皆さんもご存じのように、関西には有名な名所・旧跡がたくさんあります。なかでも私は、京都府八幡市にある石清水八幡宮(いわしみずはちまんぐう)(図1)に深い興味を抱いています。その名の通り、現在、石清水八幡宮は神社です。しかし、前近代においては、神社と寺院の合体した宗教施設でした。私は...

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鞍馬炭と木の芽煮

鞍馬炭と木の芽煮

2020年4月  京都市北部の鞍馬は鞍馬寺の門前町として有名ですが、京の七口の一つである鞍馬口と鞍馬を結ぶ鞍馬街道、そして鞍馬から若狭を結ぶ若狭街道との結節点だった場所でもあります。『近畿歴覧記』(黒川道祐、貞享期頃か)に「樓門ノ前ニ家アリ、酒食ヲ賣リ、幷ニ山椒ノ皮、木ノ目漬黒木薪柴炭等ノ物を賣レリ...

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歴史を遺す写真の歴史

歴史を遺す写真の歴史

2020年4月  文化財を写真で記録し遺す。私の所属する写真室の現在の業務です。  写真を使って文化財を遺すことは実は古くからおこなわれています。近代写真技術が発明されたのは1830年代のダゲレオタイプ(いわゆる「銀板写真」)と言われています。写真機材が日本に渡来したのは1840年代の終わり頃、日本...

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いま長屋王家木簡を見直そう!

いま長屋王家木簡を見直そう!

2020年3月  このコラムのタイトルにもなっている作寶樓の主、長屋王(676?-729)に関わる長屋王家木簡35,000点の発見(1988年)から、もう30年以上が経ちました。発掘調査によって住人を特定できた稀有の事例で、それも木簡の発見があればこそでした。  長屋王家木簡は、平城遷都直後の710...

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時刻表9百キロ

時刻表9百キロ

2020年3月  『時刻表2万キロ』という本をご存知ですか。『中央公論』の名編集長と謳われた宮脇俊三さんが、国鉄全線およそ2万キロ完乗の旅をつづった紀行文で、鉄道紀行を初めて文学作品にまで高めた名作です。私も鉄道旅行が好きで、学生時代からいろいろなところに出かけていました。1979年に四国全線約9百...

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各地に潜む古代のことば ーブリ・ハマチ・イナダー

各地に潜む古代のことば ーブリ・ハマチ・イナダー

2020年2月  鹿児島県を旅行中、聞きなれない言葉を耳にしました。  「全部になりました。」  鹿児島地方では普通に使う言葉で、意味は「全部無くなった」とのこと。面白い表現だなあと感心してしまいました。  それからしばらくして、狂言を鑑賞してました。すると、空っぽになったことを、  「皆(みな)に...

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バクテリアがつくる顔料

バクテリアがつくる顔料

2020年2月  日々の生活の中で、道路の側溝や水路の排水口に、褐色の沈殿や鉄サビ色の泥が流れたような痕跡を目にしたことはないでしょうか。例えば、図1の写真は、私が毎日通勤ルートで見かけてきたものです。  この褐色の堆積こそ、バクテリアがつくる顔料「パイプ状ベンガラ」の原料です。 パイプ状ベンガラは...

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装飾古墳 平成28年(2016年)熊本地震による被災と復旧の足取り

装飾古墳 平成28年(2016年)熊本地震による被災と復旧の足取り

2020年1月  2016年4月、震度7を観測する地震が九州地方を襲いました。中でも震源地となった熊本では、死者が50人に上るとともに、山崩れ、橋梁の崩壊、家屋の倒壊等、その被害は甚大なものとなりました。文化財についても、熊本城をはじめとした阿蘇神社等の文化財建造物の倒壊とともに、歴史的な文書や美術...

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破魔矢と古代の矢

破魔矢と古代の矢

2020年1月  新年明けて、令和2年となりました。今年の正月は、どのように過ごされたでしょうか。  正月になると、平城宮跡や藤原宮跡では凧揚げに興じる親子の姿をよく見かけます。独楽回し、羽根つき、双六に福笑い、遊びのなかには王朝年中行事に由来するものがあることはよく知られています。しかし、こうした...

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中国西安の瓦調査から

中国西安の瓦調査から

2019年12月  20年ほど前、中国の西安で、前漢の長安城の瓦を調査しました。当時、平城宮の瓦を研究していた私は、長安城の瓦から何ともいえない違和感を覚えました。その違和感は何か、しばらくして気づきました。文様の笵の違いです。長安城の軒瓦は、日本と同じく、文様をかたどった笵を粘土に押して文様をほど...

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古代建築部材に隠れた大工の技

古代建築部材に隠れた大工の技

2019年12月  奈良には建てられてから1200年を超える古代建築がたくさん残っています。これらの古代建築は主に木造で、見るたびに私はその全体の雄大さに心を癒されます。  ところで、電動工具がない古代に、これらの建築の部材はどのようにして製材されたのでしょうか? 山に生えている原木は、伐採ののち製...

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気付くことで見えること

気付くことで見えること

2019年11月  考古学研究などという風変わりなことを仕事にしてしまうと、普段の生活の中の景色の中でも人の活動の「かけら」を見つけてしまいます。道を歩いていても、ここは少し小高いから集落がありそうだナア、とか、あの地割は古そうダゾ、とか、あそこは意図的に地形を削って何か建てたのカナ、とか。「おそら...

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平城宮跡のうんち

平城宮跡のうんち

2019年11月  今から十年前の2009年1月に、平城宮東方官衙地区の一画で推定十万点とされる木簡が検出された大きなごみ穴が発掘されました。このごみ穴をすべて掘り上げた穴の底から、多量のウリの種を含む小さな穴が、数か所見つかりました。ウリの種の塊とともに、トイレットペーパーとして使われた籌木(ちゅ...

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宮殿らしさ

宮殿らしさ

2019年10月  平城宮は奈良時代の宮殿ですが、現在の平城宮跡で宮殿らしさを感じられるところはどこでしょうか?そうですね、朱雀門や大極殿の巨大な復原建物は、平城宮跡の名所として定着してきましたね。たしかに、赤色の太い柱や、緑色の窓は、「あおによし~」と謳う都のイメージに合いますね。  ところで、日...

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新庁舎に眠るお宝

新庁舎に眠るお宝

2019年10月  奈文研では、1952年(昭和27年)の開所以来、発掘調査はもとより、私が関わる建造物をはじめ、さまざまな分野の調査研究をおこなってきました。これら成果は、報告書、年報、紀要等、さまざまなかたちで世の中に発表されています。とはいっても、発表された成果は、実際に調査した内容の一部にす...

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藤原宮大極殿院南門前幢幡遺構の配置について

藤原宮大極殿院南門前幢幡遺構の配置について

2019年9月  2016年に藤原宮大極殿院南門前で発見された7本の幢幡遺構についてはこのコラムでも以前に取り上げられてきました(2017年3月、2018年11月、2019年4月)。大宝元年(701)元日の朝賀の時に烏形幢、日像幢、月像幢、青龍幡、朱雀幡、白虎幡、玄武幡を立てたと考えられる柱穴の跡で...

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エノコログサとアワ

エノコログサとアワ

2019年9月  エノコログサ(Setaria viridis)。平城宮跡でもよくみられる、ふさふさの穂が特徴的な野草"ねこじゃらし"のこと。ちなみに、中国語で狗尾草(イヌの尾の草)、英語ではgreen foxtail (緑色のキツネの尾の草)、奈良時代の平城宮東方官衙地区でも生えていました。  こ...

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礎石からみた古代建築の上部構造

礎石からみた古代建築の上部構造

2019年8月  奈良文化財研究所では、平城宮跡などを舞台に、失われた建物の復元研究をおこなっています。復元研究は、発掘調査で見つかった建物跡、その建物に使われた瓦や礎石などの出土遺物を中心として、関連する文献・絵画などの資料や、現存する類例建物の検討など、多面的な分析が必要です。復元研究の方法は、...

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掘立柱建物に住む

掘立柱建物に住む

2019年8月  古代の集落は、大きく2種類の建物で構成されていました。一つは地下式の「竪穴建物」で、もう一つが地上式の「掘立柱建物」です。縄文時代以来、住居はほとんどが竪穴建物で、掘立柱建物は倉庫や神殿、居館といった施設に限られていました(図1)。しかし、古墳時代には掘立柱建物を一般の住居として使...

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鞍つくりから仏つくりへ

鞍つくりから仏つくりへ

2019年7月  みなさんは鞍作鳥(くらつくりのとり、止利とも書く)という人物をご存知でしょうか。  彼は日本最初の本格的寺院である飛鳥寺の釈迦如来像(飛鳥大仏)のほか、法隆寺金堂の釈迦三尊像をつくったことで知られる、飛鳥時代を代表する仏師です。ではなぜ、彼の名前は「仏作」ではなく、「鞍作」なのでし...

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ハエがつないだ日韓交流

ハエがつないだ日韓交流

2019年7月  ポンテギという韓国の食べ物をご存知でしょうか?ポンテギとは、韓国語でさなぎを意味する単語ですが、一般的には、蚕のさなぎを醤油などで甘辛く煮たものを指し、ある時はマッコリのつまみとして、ある時は食べ歩きのおやつとして屋台で目にする、韓国ではお馴染みの食べ物です。しかし、とにかく見た目...

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「時をこえて」掘りおこされた埴輪

「時をこえて」掘りおこされた埴輪

2019年6月  木々の新緑がまぶしい平城宮跡は、遠足シーズンもあって小学生でにぎわう季節を迎えています。その平城宮の正門、朱雀門の前に、昨年3月に開館した「平城宮いざない館」があります。奈良時代を体感し、その舞台となった平城宮跡に親しんでいただくための、ガイダンス施設です。   平城宮いざない館の...

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「骨ものがたり-環境考古学研究室のお仕事」の舞台裏

「骨ものがたり-環境考古学研究室のお仕事」の舞台裏

2019年6月  現在、飛鳥資料館では、春期特別展「骨ものがたり-環境考古学研究室のお仕事」が開催されています。(4月23日~6月30日)  環境考古学とは、遺跡から出土する動植物遺存体(骨や種子など)の調査を通して、昔の生活環境や食生活、生業など、人と自然がどのように関わりながら生きていたのか、そ...

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モンゴルの兵馬俑

モンゴルの兵馬俑 "Shoroon Bumbagar"

2019年5月 皆さんが「兵馬俑」という言葉を聞いたとき何を連想されるでしょうか? おそらく、多くの人は中国の秦の始皇帝陵をすぐに思い浮かべるのではないかと思います。確かに、始皇帝陵の兵馬俑は世界的にも有名で、質・量ともに群を抜いています。しかし、兵馬俑は始皇帝陵だけで発見されているわけではありませ...

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烏形の幢は八咫烏か

烏形の幢は八咫烏か

2019年4月   藤原宮大極殿院の南門前から2016年の夏に発見された7本の幢幡遺構。その配置と性格について、2017年3月1日の作寶楼「藤原宮の幢幡遺構を読み解く」で私見を述べました。その際に未解決の課題として残されたのが、中央に位置する烏形の幢の性格でした。この烏形幢は、四神幡や日月像と異なり...

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遺跡に刻まれた災害の爪痕

遺跡に刻まれた災害の爪痕

2019年4月   先日(3/8)、平城宮跡資料館で開催されている「発掘された平城2017・2018」(2019/2/2~3/31)のギャラリートークで、平城京跡で発見された地震の痕跡についてお話しさせていただきました。平城宮の正門・朱雀門の周辺から出土した人形や、法華寺旧境内から出土した井戸枠の磚...

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優等生は芯が強い?

優等生は芯が強い?

2019年3月   立派な木製品が出土したよ!――こうした明るい声の報告が発掘担当者から寄せられることがあります。この「立派」というのは、人力では持ち上げられないほど大きいという意味や、とても1000年以上ものあいだ地下に埋まっていたとは思えないほどかたくしっかりしているといった意味であることが多い...

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奈良時代、美しい文字の裏側

奈良時代、美しい文字の裏側

2019年2月   平城宮跡資料館では、毎年秋に「地下の正倉院展」で木簡の実物を展示しています。けっして見栄えする遺物とはいえない木簡ですが、来場者の方からは、毎年必ずと言っていいほど「木簡の文字がきれいで、読みやすくて、感動した」という感想をいただきます。  奈良時代の出土文字資料の中には、時に目...

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お風呂のトリプル「七」

お風呂のトリプル「七」

2019年2月   身体の芯まで冷える2月。こんな時はゆっくりとお風呂に浸かって、こごえた身体を温め、一日の疲労を癒したいものです。5月の菖蒲湯や12月の柚子湯のように、2月の季節湯は大根湯だそうですよ。  古代の入浴法のひとつに、蒸気浴という形式があります。いわゆるミストサウナです。奈良時代の寺院...

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閉室日の過ごし方 ~キトラ古墳壁画保存管理施設の場合~

閉室日の過ごし方 ~キトラ古墳壁画保存管理施設の場合~

2019年1月   みなさんは博物館に足を運ぶ機会はありますか? 訪れる前には、アクセスや開館情報を調べるという方も多いのではないでしょうか。各館の情報を確認すると、館ごとに違いはありますが、週に一度は休館日を設けている博物館が多いと思います。私が勤務するキトラ古墳壁画保存管理施設の展示室では、毎週...

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カンボジアのもち米つき

カンボジアのもち米つき

2019年1月   みなさんはお正月にお雑煮を召し上がられたでしょうか。私の実家では、近所のお米屋さんからお餅を購入していましたが、今でもご家庭でお餅つきをする方も中にはいらっしゃるのではないでしょうか。  私が調査に入っているカンボジアは、日本と同じくコメ食文化を持っており、もち米も栽培しています...

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フタの裏には何がある?

フタの裏には何がある?

2018年12月   すっかり季節は冬になり年末が迫ってくる中で、温かい紅茶や茶碗蒸しが美味しい時期になりました。その紅茶のポットや茶碗蒸しの容器のフタを、裏返しにしてみてください。写真の右側のように、フタそのものよりも一回り小さな径で、円筒状の突起をもつものがありますね。この突起は古代の須恵器にも...

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鉄の文化財を保存する

鉄の文化財を保存する

2018年12月   「なぜ我々は出土鉄製文化財の保存の研究に取り組むのか?」その理由の一つは鉄という元素が持つおもしろい特徴にあります。  鉄は元素番号26、電子数26、周期表の中央より少し上に位置する点で特殊性は見出せません。しかし、地殻やマントル、核には地球の体積の約1/3を占めるほどの鉄が含...

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平城から、平成まで ―「隆光さんの墓石」の向こうに―

平城から、平成まで ―「隆光さんの墓石」の向こうに―

2018年11月   平城宮跡の北端近く、佐紀池の北のほとりに立つ「隆光(りゅうこう)さんの墓石」を知る人は、あまり多くないかもしれません。  ですが、ここは、平城宮跡に堆積した「歴史の地層」を眺めるには格好のスポットです。  「隆光さん」は江戸時代中期の僧侶・護持院隆光のこと。徳川五代将軍綱吉の祈...

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平城宮第一次大極殿院における幢旗遺構の発見と奈文研の継続調査

平城宮第一次大極殿院における幢旗遺構の発見と奈文研の継続調査

2018年11月   元日朝賀と即位式は、古代国家にとって最も重要な儀式でした。これらの儀式に用いられたのが、烏・日月・四神をモチーフにした7本の宝幢・四神旗(幡)(以下、幢旗(幡))です。平安時代の史料には、主柱に2本の脇柱が付く3本柱の幢旗が大極殿の前に7本横一列に並ぶと規定されています。198...

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「自由(フリー)」と「オープン」で広がる新たな世界

「自由(フリー)」と「オープン」で広がる新たな世界

2018年10月   皆さんは飛鳥資料館の平成30年度春期特別展「あすかの原風景」はご覧になりましたでしょうか?  その展示室の片隅に、空中写真や古絵図を自由に拡大縮小表示するPCが置かれていたことにお気づきになりましたか?  この装置は、飛鳥資料館の西田研究員が調査した古地図の画像と現在の風景とを...

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「十六むさし」と「八道行成(やさすかり)」

「十六むさし」と「八道行成(やさすかり)」

2018年10月   最近、我が家では子どもと一緒に「十六むさし」というゲームで遊んでいます。 十六むさしとは、四角と三角の外枠に縦横斜めの線を引いた盤面(図1)の上で、親駒と子駒を交互に動かして遊ぶ対戦ゲームです。親駒1個、子駒16個でゲームを開始し、親駒が子駒の間に入ったら子駒を捕って数を減らす...

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様式主義のハイテック

様式主義のハイテック

2018年9月   関西といえば、古代建築をはじめ古建築の宝庫ですが、明治以降につくられた近代建築もまた多く残っています。特に大阪には、大大阪時代と呼ばれた大正後期から昭和初期に建てられた、優れた近代建築が多く残っています。この頃の建築の主流は、ヨーロッパの建築様式を駆使してつくられる様式主義建築で...

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正史と礎板

正史と礎板

2018年9月   宝亀3年(773)12月29日、狂った馬が平城宮的門の土牛・偶人と、弁官の役所の南門の限(シキミ)を食い破る。  『続日本紀』に記された一コマです。興奮して暴れる馬、役人たちのわたわたと慌てる姿が目に浮かびます。奈良時代の国家に関わる出来事を記したお堅い正史にあって、思わずにやり...

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木簡の「夏」

木簡の「夏」

2018年8月   今年の夏は異常なまでに暑い日が続きました。お盆も過ぎ、少しは暑さも和らいできたように感じられますが、各地で39度を記録する日もあるなど、まだ油断はできません。来夏以降もこのような猛暑が続くのでは、という不穏な話も耳にします。  さて、古代にも毎年暑い夏がやって来ていたはずですが、...

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大極殿を飾った二種類の凝灰岩

大極殿を飾った二種類の凝灰岩

2018年8月   藤原宮大極殿は、柱の基礎に礎石を使用し、屋根には瓦を葺くという大陸的な様式を 取り入れた、我が国で最初の宮殿建築でした。桁行9間、梁行4間のその巨大な建物は、舞台のような高い基壇の上にそびえていました(図1)。古代の寺院や宮殿の基壇は、土を盛り固めて築かれますが、最終的に表面を精...

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むぎまりのはなし

むぎまりのはなし

2018年7月   平城宮や平城京で出土する土器には、それらがかつて使われていたときについていた名前があったはずです。例えば奈良時代の「正倉院文書」には、水埦(みずまり)、麦埦(むぎまり)、羹坏(あつものつき)・饗坏(あえものつき)・塩坏という器名がたびたび登場します。そうすると平城宮から出土する土...

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瓦の「重さ」からわかること

瓦の「重さ」からわかること

2018年7月   平城宮・京や寺院跡を発掘しますと、非常に大量の瓦が出土することがあります。例えば、平成15年に行われました法華寺の防災施設改修工事に伴う発掘調査(平城第363次)では、調査面積がわずか321㎡だったにもかかわらず、実に4t以上の瓦が出土しました。  さて、この「4t以上」という数...

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インドからローマまで

インドからローマまで

2018年6月   みなさんは、弥生時代や古墳時代のお墓からたくさんのガラス小玉が見つかっていることをご存知でしょうか。驚くことに、これまでの発掘調査で実に60万点をこえるガラス小玉が出土しています。  日本でガラス小玉が初めて出現するのは紀元前3世紀頃の北部九州です。この時流入したガラス小玉は、直...

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藤原宮から平城宮、瓦工人の足跡をたどる

藤原宮から平城宮、瓦工人の足跡をたどる

2018年6月   694年(持統天皇8年)、飛鳥浄御原宮から遷都した藤原宮では、日本で初めて寺院以外に瓦が採用されました。屋根を覆う黒灰色の瓦は、建物を風雨から守るだけでなく、建物を荘厳にみせる効果があります。瓦葺の藤原宮は、律令制に基づいた新しい都城の象徴として視覚的にも大きなインパクトを与えた...

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年輪を使って木製品のパズルを解く

年輪を使って木製品のパズルを解く

2018年5月   年輪年代学は,狭義には年輪変動を用いた年代測定を指し,年輪が形成された年代を1年の精度で誤差なく特定することができます。わが国においては,年代測定手法として定着していると言っても過言ではないでしょう。しかし,広義には,樹木の年輪成長が地域的な気候要素の影響を受けて変動する特性を生...

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新たなる実験考古学を目指して

新たなる実験考古学を目指して

2018年5月   私は現在、奈文研の考古第二研究室で奈良時代の土器・土製品について調査・研究をおこなっていますが、学生時代からの専門である中国青銅器の鋳造技術についても研究を続けています。殷周青銅器の鋳造技術は、現代の技術をもってしても製作技法があきらかになっていないものもあり、世界の金工技...

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梅のはなし

梅のはなし

2018年4月   ようやく寒い季節も終わりをつげ、上着のいらない暖かい季節が到来しました。平城宮跡でも春を告げる梅や桜の花が咲き、今年もお花見のお客さんをたくさん見かけました。今回はその桜...、ではなく梅のお話しです。  「難波津に 咲くやこの花 冬ごもり 今は春べと 咲くやこの花」(王仁『古今...

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白い象

白い象

2018年4月   享保13年(1728)、時の将軍徳川吉宗に献上されるため、清国より長崎に2頭の象が到着しました。2頭は5歳のオスと3歳のメスで、メスの象は病のため長崎で死んでしまいましたが、オスの象はさらに大阪まで船で渡ったのち、京都を経て江戸まで2カ月以上をかけて歩いて移動しました。いわゆる「...

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古代の北極星はどれ?

古代の北極星はどれ?

2018年3月   キトラ古墳には現存世界最古とされる本格的な天文図が残されています。今回は、この天文図(以下、キトラ天文図)に描かれた星のうち、どれが古代の北極星にあたるのかを考えてみましょう。  キトラ天文図は、図の中央が天の北極にあたり、そこにはその名も「北極」という名の中国星座が描かれていま...

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塩分の摂取にご注意

塩分の摂取にご注意

2018年3月   塩分を過剰に摂取すると高血圧などのいわゆる生活習慣病のリスクが高まる、ということは良く知られたことで、減塩の調味料などもよく目にしますし、読者の方の中には日頃から減塩に気をつかわれている方も多いと思います。  ところが、塩が悪さをするのは何も人間に対してだけではありません...

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大人気!玉枕イベントの舞台裏

大人気!玉枕イベントの舞台裏

2018年2月   「大きなビーズ!」「ここの編み方が難しい…」2017年の夏、飛鳥資料館の講堂に、子供たちの声が飛び交いました。飛鳥資料館で初開催した「つくろう!!ミニチュア玉枕」のイベントの一幕です。今回は、このイベントの舞台裏をご紹介します。  「つくろう!!ミニチュア玉...

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「美濃」「美濃國」刻印須恵器はどこへいったのか?

「美濃」「美濃國」刻印須恵器はどこへいったのか?

2018年1月   岐阜県岐阜市に、国の史跡に指定されている老洞古窯跡群という遺跡があります。飛鳥・奈良時代の美濃国(現在の岐阜県南部)では最大、全国規模でも屈指の須恵器生産地であった美濃須衛古窯跡群(美濃須衛窯)の一角をなす窯跡群で、発掘調査によって3基の窯跡の存在が確認されています。古代の窯跡だ...

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新年

新年

2018年1月   年越し蕎麦を食べて除夜の鐘を聞いて、初日の出、お屠蘇におせち料理、お年玉、初詣。それなりに忙しく過ごした元旦の夜に見るのが初夢。縁起が良いのは、一富士二鷹三茄子。なんでも、徳川家康が好きだったベスト3なんだとかいう話もありますが、夢に富士山がどーんと出てくれば、確かになんだ...

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何が動いたのか―瓦からわかること―

何が動いたのか―瓦からわかること―

2017年12月   私はふだん瓦、特に複雑な文様をもつ軒瓦の研究をしています。すると時々、かなり離れた場所で、まったく同じ文様の軒瓦が見つかることがあります。ほとんどの軒瓦は、文様を彫りつけた笵(型)を粘土に押しつけて文様をつけるので、文様がまったく同じということは同じ笵を使った、ということ...

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身近でない古代

身近でない古代

2017年12月   まず、下の写真をご覧ください。「大きな白い骨」と「小さな茶色の骨」が写っています。小さな茶色の骨は奈良文化財研究所の発掘調査で出土した骨、大きな白い骨は比較するためのレプリカ標本です。何の骨だと思いますか?  この骨は、人の骨です。左側の白い骨(レプリカ標本)は、大人の...

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仏殿の荘厳

仏殿の荘厳

2017年11月   奈良には奈良時代の寺院建物が多く残っています。近年は奈良時代の姿を再現した堂塔を見ることもできます。しかし、これら新旧の建物の印象がだいぶ異なっていることはみなさんもお気づきでしょう。そこで、奈良時代の仏殿の様子をできるかぎり再現してみたいとおもいます。多くの資料がのこる東大寺...

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西隆寺とその塔

西隆寺とその塔

2017年11月   現在の近鉄大和西大寺駅北口付近に西隆寺(さいりゅうじ)という寺院があったことをご存じでしょうか? 僧寺である西大寺に対する尼寺として、神護景雲元年(767)頃に造営が開始された国家官寺ですが、その後の歴史は明確でありません。元禄11年(1698)に作られた「西大寺伽藍絵図...

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近世城跡の近現代

近世城跡の近現代

2017年10月   文化遺産部遺跡整備研究室では、平成28年12月16日に「近世城跡の近現代」をテーマに遺跡整備・活用研究集会を開催し、現在はその報告書を作成しています。  近世城跡は近代になって藩政の拠点としての機能を失い、その役割を大きく変えました。そこには行政施設や軍事施設、学校施設...

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最古の孫悟空?

最古の孫悟空?

2017年10月   『西遊記』は、中国や日本の漫画、ドラマにも繰り返し描かれ、今でも人気を集める物語です。唐の長安と言えば、『西遊記』をイメージする人も少なくないでしょう。教典を求めて天竺へ向かう玄奘三蔵は、7世紀に実在した高僧です。困難辛苦に打ち勝ち、教典を持ち帰る話は、人々の尊敬と好奇を...

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奥出雲の庭園と製鉄に関わる文化遺産

奥出雲の庭園と製鉄に関わる文化遺産

2017年9月   島根県庁のある松江市から30kmほど離れた奥出雲町は、標高およそ300mから500mのなだらかな丘陵が伸びる美しい中山間地域にあります。最近、そこに所在する絲原(いとはら)家住宅の庭園を調査する機会がありましたので、今回はその庭園と関連する文化遺産について紹介します。 &...

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大坂城石垣の「海の残念石」

大坂城石垣の「海の残念石」

2017年9月   豊臣秀吉が築いた大坂城は、大坂夏の陣での落城後、徳川幕府によって再築されました。その際、石垣石の採石・運搬・石積みといった石垣普請は公義普請(お手伝い普請)で行われ、主に西国諸藩が担当しました。再築にあたって将軍徳川秀忠は「石垣は秀吉のつくった石垣の倍の高さにするように」と...

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災害と文化財

災害と文化財

2017年8月   日本は災害の多い国です。国土交通省のホームページの災害・防災情報を見てみると、平成28年には、地震12件、風水害9件、火山活動1件、雪害3件が掲載されています。この中には熊本地震や鳥取県中部地震、台風10号による水害があり、いずれも甚大な被害が報告されています。本年も7月に...

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「茹でる」のナゾ

「茹でる」のナゾ

2017年8月   人は食べられなければ生きていけません。博物館施設での展示においても昔の料理や郷土料理の紹介は来館者に人気の高いテーマの一つであり、平城宮跡資料館でも奈良時代の貴族の食膳を復原したコーナーは人気があります。「こんなものを食べていたのか」という驚きであったり、親近感であったりを感じら...

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教科書に残る仕事

教科書に残る仕事

2017年7月   先日、中学生の息子と娘が1学期の中間テストを控えて勉強をしていたので、歴史の教科書を見せてもらいました。写真やイラスト満載で教科書もビジュアルなものとなり、その内容も藤原京の大きさはおよそ4倍、貨幣についても和同開珎以前に富本銭が使われていたとする説があります、と記載される...

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もうひとつの「長屋王墓」~『日本霊異記』を歩く2

もうひとつの「長屋王墓」~『日本霊異記』を歩く2

2017年7月   1988年に平城京左京三条二坊から出土した3万5千点の木簡は、「長屋王家木簡」と名づけられ、奈良時代の貴族の生活を垣間みる、貴重な資料として知られています。これらの木簡は、古代史研究において長屋王の名を不動のものとしたのですが、彼は奈良時代の人物としては比較的史料がゆたかで...

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古文書のハコ

古文書のハコ

2017年6月   私は文献史学の専門家で、文字を読むことを仕事にしています。当研究所での私の担当は、古い寺社が所蔵している古文書や書物の調査をすることです。ただし文字を読むといっても、調査の過程では、それ以外のものを目にすることもあります。  下の写真は、興福寺が所蔵しているものですが、お...

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彩色文化財保存へのアプローチ

彩色文化財保存へのアプローチ

2017年6月   みなさん、日々、色を意識して過ごしていますでしょうか?  色のない世界を想像してみたらどうでしょう?私たちの日常に広がるさまざまな彩色は、元となる素材に手を加えられたもの、つまり「make・メイク」されたものです。「色をMakeする」こと、それは例えば、顔を装い飾る「化粧...

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坂田寺跡出土の銭貨

坂田寺跡出土の銭貨

2017年5月   奈良県高市郡明日香村にある坂田寺跡は、鞍作氏の氏寺で、飛鳥を代表する尼寺とされる坂田寺の遺跡です。今回は、ここから見つかった地鎮の銭貨をご紹介しましょう。  1986年の発掘調査でみつかった土坑SK160からは、合計291枚もの銭貨、金箔・琥珀玉・ガラス玉などの玉類、銅鈴...

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旧石器人は

旧石器人は"粉もん"を食べたか?

2017年5月   大学院在学中から、ずっと山東、山西、河北、河南といった中国華北地域で調査をしています。この地域の主食は、伝統的に小麦粉やアワなどの雑穀の粉から作った食品(粉食)です。2週間にわたって華北各地を回って調査をした際に、最後に北京に戻ってくるまで、とうとう一粒の米も食べなかったこともあ...

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起きあがる古代の記憶

起きあがる古代の記憶

2017年4月   墨で文字のかかれた木札を木簡(もっかん)と呼びますが、文字を消すために木簡の表面から刃物で薄く削りとられた細片のことを、とくに削屑(けずりくず)と呼びます。1cmに満たないほど小さなものも多い削屑ですが、表面に少しでも文字が残っていれば、立派な文字資料です。奈文研の研究員た...

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日本庭園史話

日本庭園史話

2017年4月   森蘊という人物はご存知ですか?  ご存知ない方はまずその名前の読み方に悩まされるでしょう。蘊蓄の「蘊(うん)」と書いて「おさむ」と読みます。確かに、珍しい名前です。  森蘊は1905年、東京立川市に森家の6男として生まれました。兄弟も順番に秀、喬、禎、榮、實と、みな一文...

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空から眺める北山杉の里

空から眺める北山杉の里

2017年3月   景観研究室では、北山杉の里である京都市北区中川北山町(中川地域)を舞台に、平成26年より受託事業として「北山杉の林業景観」の調査研究をおこなっています。  調査研究の一環で、小型無人航空機(通称:ドローン)による空撮を実施しています。上空から北山杉の林業景観を眺めてみると...

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藤原宮の幢幡遺構を読み解く

藤原宮の幢幡遺構を読み解く

2017年3月   2016年夏、藤原宮大極殿院の南門の前から、大宝元年(701)の元日朝賀の儀式で立てられた7本の幢幡(どうばん)の遺構が見つかりました。『続日本紀』はその儀式の様子を次のように伝えています。  「天皇、大極殿に御(おは)しまして朝(ちょう)を受けたまふ。その儀、正門に烏形(うけい...

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その先の「記録」へ

その先の「記録」へ

2017年2月   「最近は少なくなったけど、今でも奈良公園や春日大社の近くに住んでいる人は、近くのスーパーに行くときは鹿に乗ります」   「か、からかうんじゃない」   「本当です。奈良公園のあたりに行ったら、いくらでもマイシカに乗っている人を見かけます」  平城宮跡と奈良公園界隈を舞...

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上を向いて歩こう

上を向いて歩こう

2017年2月   昨年7月に奈良国立博物館から奈文研に異動したのに伴い、職場が平城京の外京だった奈良公園から平城宮跡に変わりました。奈良時代の官人の気分を想像しつつ朝日・夕日に照らされた大極殿や朱雀門を見上げながら職場と自宅を行き来しています。  建物を見上げて最初に目につくのは屋根ではな...

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入所当時の思い出

入所当時の思い出

2017年1月   長らく研究所にお世話になりましたが、今年度末で退職となりました。作寶楼の趣旨とはやや違うかもしれませんが、ちょうどこの時期に執筆順が回ってきたので、思い出を語ることをお許しください。  私が研究所に入ったのは1981年4月でした。今でもそうですが、新人は平城宮跡発掘調査部...

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甘樫丘の穀物倉庫?

甘樫丘の穀物倉庫?

2017年1月   私たちが普段遺跡を発掘していると、土器や瓦、石器、金属器、あるいは木器などの遺物が見つかることは、皆さんご承知の通りです。これらの遺物は肉眼でも目に付きやすいので、現場において出土位置や層位を記録して回収します。ところが、こうした遺物以外にも、目につきにくい微細な遺物から、...

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古写真・発掘のススメ

古写真・発掘のススメ

2016年12月   みなさんのお宅には古~い写真が眠っていませんか?  押し入れの奥底から、おじいさんとおばあさんの若かりし頃の写真が。あるいは何でもない近所の風景写真が。それはおそらく保存状態も良くない、古びた紙焼きされた写真たちでしょう。でも、もしそんな写真が出てきたら、今一度よく観察...

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SMAP

SMAP

2016年12月   Site(遺跡) 奈文研が恒常的に調査研究をしている遺跡は、平城宮・京跡と藤原宮跡、それに飛鳥の諸遺跡です。いずれも飛鳥時代から奈良時代の遺跡で、文献記録が残されています。発掘成果と文献記録は車の両輪。互いに補い合って、さまざまな画期的成果をあげてきました。明日香村の飛鳥...

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「あめのはぶき」と鹿の皮

「あめのはぶき」と鹿の皮

2016年11月   以前、このコラムで鍛冶屋さんのお話を書いたことがあります。今回はそれに関連して、「天羽鞴(あめのはぶき)」という「鞴(ふいご)」のお話をしようと思います。鞴というのは送風装置のことで、鍛冶屋などで、鉄を真っ赤に熱したり銅を熔(と)かしたりできるように、炉に空気を送り込んで...

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増田町の民家

増田町の民家

2016年11月   建造物研究室では2014,15年度に秋田県横手市増田町の重要伝統的建造物群保存地区に所在する2棟の民家の詳細調査を実施しました。秋田県内陸南部の横手盆地は日本有数の豪雪地帯として有名です。  増田町は中世の増田城下町に端を発する集落で、増田城の廃城後も周辺の物資の集散地として栄...

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木簡の再利用ここにきわまれり

木簡の再利用ここにきわまれり

2016年10月   木簡にはさまざまな形のものがあります。中でも、え!、これも木簡?、と思わせる代表格は、軸の木簡(写真1左)でしょう。どこに文字があるか、おわかりでしょうか?  円柱状に加工された白木の軸で、文字は両端の直径20㎜足らず(この木簡はまだ太い方)の木口(こぐち)に書かれてい...

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灰色文献

灰色文献

2016年10月   灰色文献と言っても、本が灰色なわけではありません。書店で簡単に購入できたり、多くの図書館に所蔵されたりしていて、誰でも読むことができるのが白色文献、関係者以外まったく入手できないか存在自体が公表されていない文献を黒色文献と呼ぶ時に、その中間にあたるのが灰色文献です。  ...

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平城宮跡東方官衙の檜扇(ひおうぎ)

平城宮跡東方官衙の檜扇(ひおうぎ)

2016年9月   平城宮の東側には奈良時代の役所の区画が南北に連なっていた地区があります。平城宮跡東方官衙地区と呼んでいるこの範囲のうち中央よりやや南の区画を2008年12月から2009年2月にかけて発掘調査したところ、大きな楕円形の土坑が見つかりました。この土坑は東西約11m、南北約7mの大きさ...

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四分遺跡と石庖丁

四分遺跡と石庖丁

2016年9月   藤原宮跡には長閑な田園風景が広がり、私も通勤の傍ら、四季折々の姿を目にしています。代掻きや田植えといった作業風景、秋には黄金色に染まる稲の生長が四季を感じさせてくれます。使う道具こそ異なるものの、こうした情景は2000年以上昔の弥生時代と同じだったのでしょう。興味深いことに...

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最古級都市のモデル

最古級都市のモデル

2016年8月   日本で最古級の都市(都城)といえば、藤原京のことですが、今日はユーラシア大陸のずっと西、私が長らく研究してきた西アジアのお話です。  西アジアというと、乾ききった沙漠とティグリス・ユーフラテス両大河のイメージでしょうか?しかし、森林が比較的卓越した肥沃な土地もまた、東地中...

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平城宮跡を体感する

平城宮跡を体感する

2016年8月   みなさんは、30年前の平城宮跡をご存じでしょうか。この頃は、内裏周辺のツゲの植栽による柱位置の表示、第二次大極殿の基壇の復原など、整備もまだ部分的で、大半は広い野原でした。近年では、発掘調査成果の蓄積を受け、兵部省・式部省では柱および壁や塀などを立体的に立ち上げる半立体復原...

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空地がいっぱい?まだまだ未知の平城宮

空地がいっぱい?まだまだ未知の平城宮

2016年7月   みなさんは、平城宮の宮城図をご覧になったことはあるでしょうか?(まだの方は当ホームページからダウンロードできますのでどうぞ)宮城図は奈良時代前半のものと後半のものがありますが、どちらも描かれている建物の数が少ないことにお気づきになるでしょう。  …平城宮は建物...

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おもしろさがいっぱい!デジタルメディアを用いた展示

おもしろさがいっぱい!デジタルメディアを用いた展示

2016年7月   博物館や美術館を訪れると、解説映像を目にしたり音声ガイドを使ったりする機会があると思います。博物館施設では、それらのデジタル技術を用いたコンテンツ等を「デジタルメディア」と呼んでいます。近年、世界中でデジタルメディアを取り入れたユニークな展示が行われており、博物館施設になく...

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古墳時代の刀の楽しみ方

古墳時代の刀の楽しみ方

2016年6月   昨年は流行語大賞に「刀剣女子」がノミネートされるなど、日本刀ブームが世を賑わせました。博物館の日本刀展示コーナーにも多くの若い女性の姿が見受けられ、「古墳時代の刀剣」を主な専門分野とする筆者は、刀剣への注目度が上がることを密かに喜んでおりました。ところが悲しいかな、筆者が研...

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木簡の削りくずと欠けた文字

木簡の削りくずと欠けた文字

2016年6月   鉛筆で書いた文字を消したいとき、消しゴムを使って消しますよね。墨で書く木簡でも、一度文字を書いてしまっても消すことができます。文字のある部分を小刀で削り取り、新しい面を出して再利用するのです。消しゴムのカスは黒くまるまってしまうだけですが、木簡の消しカス=削りくずには文字が...

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東大寺正倉院宝物と中央アジア

東大寺正倉院宝物と中央アジア

2016年5月   東大寺の正倉院宝物といえば、美しく装飾された楽器や色鮮やかな錦などが思い浮かびますが、刀や弓矢など武器も伝わっています。ここでご紹介したいのは金銀鈿荘唐大刀という儀仗用の大刀です(図1)。正倉院宝物の台帳である国家珍寶帳には、唐大刀13口と唐様大刀6口の記載があります。唐大...

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瓦はお寺の履歴書

瓦はお寺の履歴書

2016年5月   寺院や宮殿の遺跡を発掘すると、時期が異なる瓦が多く出土する場面に出合うことがたびたびあります。寺院をはじめ、瓦葺の建物は長い年月にわたって建っていたものが多く、修理などにともなって瓦も葺き替えられました。ところが、壊れない限り多くの瓦は再利用されるため、結果として新旧おりま...

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骨の標本が教えてくれること

骨の標本が教えてくれること

2016年4月   博物館の展示で、昔の人々が狩りをして動物を捕らえている様子が紹介されているのを見たことはありませんか。そこではシカやイノシシのように、狩りの対象となった動物の種類が具体的に説明されていると思います。  遺跡からは、当時の人々が残した動物の骨が出土することがあります。これらを調べる...

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東と西の鏡

東と西の鏡

2016年3月   みなさんはどのような鏡をお持ちでしょうか?今の鏡はアルミニウムや銀を蒸着したガラスで作られていますが、以前は銅に錫を加えた青銅で作られていました。  中国では西周末(約3000年前)ごろに青銅製の鏡が登場します。鏡は円形で、姿を映す表の面はつるつるに磨かれていますが、裏の面には様...

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1つの展示ができるまで

1つの展示ができるまで

2016年3月   皆さんは、平城宮跡資料館の展示をご覧になったことはありますか? この資料館は、奈文研の約50年にわたる平城宮・平城京の発掘調査成果を、展示をとおして皆さんに紹介する施設です。開館日(原則 月曜日および年末年始を除く日)ならいつでも見ることができる常設展示のほか、子ども向けの...

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縞の間からみえる世界

縞の間からみえる世界

2016年2月   言葉にはその国の文化をあらわす特徴が含まれています。その文化にとって重要だったものの名残が言葉として残っています。たとえば、牛はヨーロッパの言語圏では、雄牛、雌牛、子牛とそれぞれ区別してよんでいます。また、アラビア語圏でも、雄ラクダ、雌ラクダ、若いラクダ、大人のラクダ、出産...

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灰汁(あく)なき探求

灰汁(あく)なき探求

2016年2月   「石灰」「草木灰」「温泉」、この三つは一見すると何の関連もないように思えますが、共通するキーワードがあります。「アルカリ」です。  アルカリと聞いて、みなさんは何を思い浮かべますか?寒い季節にゆっくりとあたたまりたい温泉でしょうか。あるいは年末に大掃除された方は、洗剤かもしれませ...

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災害痕跡データベース~埋蔵文化財における新たな取り組み~

災害痕跡データベース~埋蔵文化財における新たな取り組み~

2016年1月   地震、雷、火事、親爺・・・最近めっきり聞かなくなったことばですが、世の中で特に怖いとされているものを語呂よく順に並べた慣用句です。この「親爺」、実は台風に相当する大山風(おおやまじ)や大風(おおやじ)が元だったという説もあり、自然災害の怖さを並べたのか、はたまた昔の親爺の怖...

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日本の漢字、中国の漢字

日本の漢字、中国の漢字

2016年1月   同じ漢字文化圏に属する日本と中国ですが、同じ漢字が違う意味で使われることが往々にしてあります。日本の「手紙」が中国ではティッシュ、あるいはトイレットペーパー、「湯」が中国ではスープ、「はしる」の意味の「走」が中国では「ある(歩)く」の意味であるといった具合に。実は、日中において漢...

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古代の木簡でよく使われた漢字

古代の木簡でよく使われた漢字

2015年12月   古代の人が書いたもの、といえば、何とも難解なイメージがありませんか。しかも、飛鳥藤原京や平城京の時代には、まだ今のようなひらがなやカタカナがなく、すべて漢字で、都で発見される木簡にも、たくさんの漢字が書かれています。そんな世界に飛び込むには、漢字の勉強での苦い思い出がよみがえる...

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瓢箪から「ひしゃく」

瓢箪から「ひしゃく」

2015年12月   最近は、神社や仏閣の手水舎(ちょうずや)等でしか見ることがなくなってしまった「ひしゃく(柄杓)」ですが、柄杓の名前の由来は、瓢箪の別名、「ひさご」からきているそうです。ひさこ…ひさく…ひしゃく、確かに似ていますね。もともとは、「ひさご」を刳り抜...

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石を割る

石を割る

2015年11月   現代日本では、建物の基礎や河川の護岸など堅牢で大量に供給できる資材としてコンクリートを用います。型枠に流し込めば自由自在に形をデザインすることができ、今日の土木工事になくてはならない存在です。  コンクリートが普及する以前は、石材を用いました。必要量の石を切り出し、一石...

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シンメトリーなはずなのに

シンメトリーなはずなのに

2015年11月   人間をはじめ鳥、魚、虫など動物の身体の形は、鮃(ひらめ)や鰈(かれい)などの例外はありますが、基本的には背骨などを軸にして左右対称です。そうなった理由はわかりませんが、やはり構造的に安定するのでしょう。デザインの世界ではこれを「シンメトリー」と呼び、紀元前から現代に至るまで...

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続けたい庭園史の研究

続けたい庭園史の研究

2015年10月   日本庭園の歴史の研究を30年以上続けてきました。当初、京都市文化財保護課に勤務していたときには、文化財行政に従事するかたわら、おもに近代京都の庭園について勉強していました。1987年に奈文研に入所してからは、平城宮跡や飛鳥・藤原宮跡の発掘調査に携わったため、発掘調査の成果...

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「ゆ」を掘る

「ゆ」を掘る

2015年10月   温泉は命の洗濯。老若男女一度は、温泉につかり、リフレッシュした経験があるでしょう。環境省の調べでは、2014年3月末現在3,169もの温泉地が日本には存在し、世界有数の温泉大国です。  では、いつ頃から日本人は温泉に入浴していたのでしょうか。『日本書紀』『続日本紀』『万...

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尻尾は1つか2つか!?

尻尾は1つか2つか!?

2015年10月   鴟尾(しび)と聞いて、すぐに形を思い描ける人はどれくらいいらっしゃるでしょうか。鴟尾は、お寺などの瓦葺き屋根のてっぺん、鯱(しゃちほこ)と同じく大棟の両端にのっている角(つの)のようなものです。2010年に復原された平城宮第一次大極殿にも金色に輝く金銅製鴟尾がのっています。鯱...

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