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建築の歴史の証言者

2023年10月

 古い建築において、建築年代はその建築を理解する上で重要な情報です。年代を判断する方法には様々なものがありますが、最も有力な指標の一つとして、棟札と呼ばれる札があります。棟札は木製が多く、建物の造営や修理の際、工事の経緯や年月日、建築主や工匠などを記し、屋根裏の部材に釘などで打ち付けることが一般的です。外形は縦長で、上端が角型のものや山型のものが大半ですが、中には横長の棟札や、上部が装飾的な形の棟札もあります。

 今回は奈良文化財研究所が調査した、高野山にある壇上伽藍・金堂の万延元年(1860)棟札を紹介します(図1)。高野山の棟札は全長約40㎝~90㎝が多い中、この棟札は約1m90㎝もあります。高野山の棟札の中では最大で、私の身長よりもかなり大きなものです。壇上伽藍・金堂は高野山の中でも重要で、格の高い建物であるからと思われます。また、通常、施工者は棟梁などの名前のみが書かれることが一般的ですが、壇上伽藍・金堂の棟札では、「彫物師」「銅瓦延師」「銅瓦葺師」「金物師」「塗師方」「彩色師」「仏工」「仏画師」「石工」「木挽頭」「日雇頭」「車力頭」として計24名の職人の名前が書かれており、高野山の棟札の中でも特に情報量が多いことも特徴です。このように、棟札にたくさんの情報があると、年代を知るための指標としてのみではなく、当時どのような施工者が造営に携わったのか、どのような工事をおこなったのかも知ることができます。

 また、壇上伽藍・西塔の天保5年(1834)棟札(図2)は、おおよそ壇上伽藍・金堂の万延元年の棟札の形式と似ていますが、裏面に建立の経緯を箇条書きではなく、文章で記載していることが特徴です。文章からは、この塔が再建であること、再建の経緯や携わった僧侶の名前などがわかります。このように、棟札の書式には多種多様な事例があります。

 私たちは、建造物調査の際には、できる限り屋根裏も調査し、棟札の有無も確認します。すべての建物に棟札があるとは限らないため、暗く足場の不安定な屋根裏に入り、埃で真っ黒になりながらも棟札が見つかった時は喜びもひとしおです。もし棟札を見かけたら、そこから建築の歴史を読み取る楽しさを味わってみてください。

図1 壇上伽藍・金堂の万延元年(1860)の棟札(左:表面、右:裏面)

図2 壇上伽藍・西塔の天保5年(1834)の棟札(左:表面、右:裏面)

(都城発掘調査部研究員 髙野 麗)

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