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近世城跡の近現代

2017年10月 

 文化遺産部遺跡整備研究室では、平成28年12月16日に「近世城跡の近現代」をテーマに遺跡整備・活用研究集会を開催し、現在はその報告書を作成しています。

 近世城跡は近代になって藩政の拠点としての機能を失い、その役割を大きく変えました。そこには行政施設や軍事施設、学校施設、文化施設、旧藩主を祀る神社などの他、それらに伴う庭園が立地し、城跡を利用した公園も成立しました。

 一方、近世城跡は学術的価値を有しているがために史跡に指定され、史跡整備ではその価値の顕在化を図ろうとします。しかし、整備計画に向かい合う時、近世城跡の近代以降の遺跡の履歴を無視することはできません。単純に幕末の姿に復元すれば良いというものではないのです。そこには旧藩主や天守など城郭建築に対する地域社会の思いや、地域が城跡の諸施設に関わった事象があり、それらに伴う近現代の事物(遺構)があります。そして、その中には文化財としての指定・登録が進んでいるものもあるためです。

 例えば、城跡に再建された天守閣でみてみましょう。

 特別史跡大坂城跡の天守台にある大坂城天守閣はよく知られている通り、江戸時代の天守台の上に場所も大きさも異なる秀吉の時代の天守をイメージし、博物館として建てた、昭和6年(1931)竣工の建物です。史跡の正しい理解には障害になる側面がないわけではありませんが、平成9年に国の登録文化財(建造物)になっています。登録文化財は平成8年の文化財保護法の改正により導入された文化財登録制度によるもので、登録の基準には建設後50年を経過していることの他、国土の歴史的景観に寄与しているものなどがあげられています。市民の寄付で造られ、大阪のシンボルとして親しまれていることが評価されているのです。

 一方、大阪府指定の史跡岸和田城にある天守閣は昭和29年(1954)に図書館として建てられたもので、こちらも史実とは異なる外観をしています。その前年には天守閣を背景にしつつ、天守閣からも鑑賞することを意識した庭園が造られました。昭和の庭園史家で作庭家の重森三玲の作品で、「岸和田城庭園(八陣の庭)」として平成26年に国の名勝に指定されています。庭園にとって天守閣は無くてはならない、本質的な価値を構成する、保存すべき要素になります。

 このように近現代に建てられた天守閣でも史跡としての価値付けだけでなく、建造物や景観としての価値付けや、庭園の背景や視点場としての価値付けがある訳です。従って、それぞれの価値を減ずることのないように配慮した城跡の整備計画が必要になります。

 

 

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国指定名勝「岸和田城庭園(八陣の庭)」 天守閣を背景に

 

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天守閣からの俯瞰

(文化遺産部遺跡整備研究室長 内田和伸)