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未然に防ぐ、事前に備える

2023年9月

 突然ですがみなさんは、健康に気をつけていますか?あまり関心がないなぁという方も、予防医療や予防医学という言葉を聞かれたことはあるのではないでしょうか。これは、病気にならないようにする、すなわち病気を未然に防ぐことや、早期に病気を発見して、早期治療に取り組むことなどを指します。このような「未然に防ぐ」や「被る不利益(被害)を最小限にする」という考え方は、私たちの生活の様々な場面で聞かれるようになってきました。災害に対しても然りです。

 ご承知のとおり、日本はもともと豪雨、洪水、崖崩れ、土石流、地震、津波など、多くの自然災害が発生している国です。近年は特に、大雨の発生頻度が大幅に増加しており、それに伴う土砂災害の発生件数も増加傾向にあると言われています。今年もすでに、大雨による被害が全国で発生しており、このことを実感されている方も多いのではないでしょうか。

 身近なところに目を向けてみると、大規模な被害でなくても、こんなところでも、と思うようなこともあります。今年の6月はじめ、奈良市内は台風の影響で、大雨に見舞われました。奈良文化財研究所の敷地内には、国立文化財機構の本部施設である文化財防災センターのプレハブがあるのですが、この大雨の際、プレハブの玄関前はみるみる冠水し、このまま雨が降り続けると室内に水が入ってきてしまうのではという状況になりました。慌てて床置きの段ボール箱などを机の上に移動させることになったのですが、冠水したのは一時に大量の雨水が流れ込んだことに加え、排水溝に葉っぱなどがつまり、水が流れにくくなってしまったことも原因となっていたのです。大雨予報の際に、気象情報などで「雨が降り出す前に排水溝の掃除をしておきましょう」と言っているのを耳にしてはいたのですが、私にとっては今回初めて、その言葉が現実味を帯びたのでした。

 この状況が、歴史的建造物や地域の文化財が収蔵されている資料館、お祭りの用具が入っている倉庫のまわりだったら、と考えると、日常的なちょっとした管理(ここでは排水溝の掃除)をしておくことで、大雨による文化財の被害を未然に防ぐ、あるいは最小限にとどめることができるかもしれません。まだまだ大雨や台風による被害が心配な時期が続きます。このコラムが、ご自身やご自宅、そして私たちの近くにある地域の文化財の防災も考えていただくきっかけになれば幸いです。

写真1:晴れの日の平城宮跡歴史公園内の水路。
大量の雨水とともに草などが流れてきて引っかかると、水が流れにくくなることが想定される。

写真2:短時間に大雨が降った際の、同じ水路の様子。

(埋蔵文化財センター(併任)研究員 中島 志保)

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