なぶんけんブログ|奈良文化財研究所に関する様々な情報を発信します。

かりうち公式ルールができるまで

2023年8月

 2022年11月に、奈文研HPにて「かりうち」公式ルールを公開しました。 かりうち(樗蒲)とは、奈文研の調査研究により出土遺物と『万葉集』、現代韓国のユンノリという民俗遊戯を総合的に検討し、現代によみがえったボードゲームのことです。古代日本では禁止令が出されるほど広く流行していたことが分かっています。

 私は、平城京出土土器を調査するなかで「かりうち」の盤面として転用した土器の存在に気づきました。研究成果をまとめ論文として発表したところで研究は一段落、と考えていたのですが、どうしても心残りがありました。それは、実際に「かりうち」で遊んでみたい!奈良時代の人たちが熱中していたならば、現代の私たちでも十分に楽しめるのではないか?という思いでした。

 かりうちと深く関連するユンノリは今も韓国で遊ばれています。かりうちの盤面が明らかになり、サイコロ代わりに使っていた「かり」という木製の棒も出土遺物の中から見つけることができました。となると、もう少し工夫すれば「かりうち」で遊べるのでは?と考えたのです。

 しかし、実際にはそう簡単ではありませんでした。ユンノリとかりうちでは盤面が少し異なります。この異なった部分の駒の動かし方をどのように復元すべきか、悩みどころでした。また、現代で遊ぶためには事実に基づく推測の範囲内で、ゲームとして楽しめるようなアレンジを加える必要もありました。

 そして、ゲームとして面白いか、楽しめるかについては、一人で考えるわけにはいきません。奈文研所員やボードゲーム愛好家などたくさんの方々のご協力を得ながらテストプレイを重ね、現代でも遊べるルールの検討をおこないました。

 苦渋の決断を下したところもあります。それは「かりの出た目の呼び方」です。ユンノリでは4本の棒の出た目の組み合わせに、それぞれ名前がついており「ト・ケ・コル・ユッ・モ」と呼びます。『万葉集』には「一伏三起(ころ)」(巻12‐2988)のように、かりの出た目に関わる戯書(言葉遊び)があり、この「ころ」とユンノリの「コル」の音が通じることが、ユンノリとかりうちを繋げる最も重要な根拠となっていたのです。

 私はかりうちを解明するうえで鍵となった目の呼び方を現代の「かりうち」にも取り入れたいと思い、「つく・け・ころ・ゆっ・まに」という案【図1】を作って、満を持してテストプレイに持ち込みました。

 が、アンケートには「呼び名を覚えるのが大変でゲームに集中できない」との厳しいコメントが・・・。

 どんなに厳密な考証を経て、こだわりを持って再現しても、楽しく遊べないと奈良時代の遊びを追体験することには繋がりません。泣く泣く呼び名を付けることは諦め、シンプルに1~5と呼ぶことになりました。

 このような多岐にわたる検討を経て制定した、かりうち公式ルールと遊び方は「かりうち」プロジェクト(https://www.nabunken.go.jp/research/kariuchi.html)をご覧ください。普及版・キッズ版キット【図2】も製作しましたので、ぜひ皆さんもかりうちを楽しんでみてください!

参考文献:
小田裕樹2016a「盤上遊戯「樗蒲(かりうち)」の基礎的研究」『考古学研究』63-1
小田裕樹2016b「現代ユンノリ遊具の考古学的分析」『考古学は科学か』田中良之先生追悼論文集
小田裕樹2023「かりうち公式ルールの検討とキットの製作」『奈良文化財研究所紀要2023』

 

【図1】幻となった「かりの目」のよび方

【図2】完成したかりうちキット(普及版)

(都城発掘調査部主任研究員 小田 裕樹)

月別 アーカイブ