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何が動いたのか―瓦からわかること―

2017年12月 

 私はふだん瓦、特に複雑な文様をもつ軒瓦の研究をしています。すると時々、かなり離れた場所で、まったく同じ文様の軒瓦が見つかることがあります。ほとんどの軒瓦は、文様を彫りつけた笵(型)を粘土に押しつけて文様をつけるので、文様がまったく同じということは同じ笵を使った、ということになります。これを私たちは同笵瓦と呼んでいます。

 たとえば、香川県で藤原京の同笵瓦、長崎県の壱岐や長野県で平城京の同笵瓦が出土しています。こんなとき私たちは、いったい何が動いたのだろうか、と考えます。いくつかのパターンを推理してみましょう。

 ①瓦を運んだ? 遠くの生産地などから瓦を運んでくるケースです。香川県で出土した藤原京の同笵瓦はこれでした。このほか、藤原京から平城京、長岡京、平安京へと都が移動するとき、前の都から瓦を運んでリサイクルする場合もありました。重たい瓦でも、運んだ方が楽だったのでしょうか。

 このケースでは、軒瓦の文様だけでなく作り方や瓦を焼いた粘土まで、まったく同じになります。

 ②笵だけが動いた? 不要な笵をもらってきたり、借りてきたりするケースです。長崎県の壱岐で出土した平城京の同笵瓦はこれでした。瓦作りの技術者や材料などはすでにそろっていて、笵だけが足りなかったのでしょうか。

 このケースでは、まったく同じなのは文様だけ。作り方や粘土は異なることになります。

 ③笵と技術者が動いた? 笵を携えた技術者が、現地に移動して瓦を作るケースです。長野県で出土した平城京の同笵瓦はこれでした。現地に瓦を作れる人も何もなく、一からすべてそろえないといけなかったのでしょうか。

 このケースでは、文様と作り方はまったく同じですが、粘土が異なることになります。

 動いたのは瓦か、笵か、技術者か。こうした人や物の動きを知るには、軒瓦はうってつけの素材です。そうした動きの背景にある地域間や個人間の特殊な関係、当時のものづくりの組織やそれを支える体制などをうかがい知ることができます。文様、作り方、粘土の特徴を丁寧に調べることで、当時の社会や人々のようすがいきいきと浮かび上がってくる、瓦研究のおもしろさはこんなところにあると私は思っています。

 

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瓦と瓦作り道具と技術者(イメージ)所蔵元:山本瓦工業株式会社

(都城発掘調査部考古第三研究室長 清野孝之)