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お風呂のトリプル「七」

2019年2月 

 身体の芯まで冷える2月。こんな時はゆっくりとお風呂に浸かって、こごえた身体を温め、一日の疲労を癒したいものです。5月の菖蒲湯や12月の柚子湯のように、2月の季節湯は大根湯だそうですよ。

 古代の入浴法のひとつに、蒸気浴という形式があります。いわゆるミストサウナです。奈良時代の寺院には「浴室」や「温室」と呼ばれた入浴施設がありました。寺院に浴室が設置されはじめたのは、天平年間(729-749)ごろと考えられています。天平年間には、国内で天然痘の流行や天災が相次ぎ、国家安定祈願のため、経典の読経も盛んにおこなわれました。読経に際して、僧侶は身体を清めるために沐浴をする必要があり、各寺院に浴室が設置されたといいます。この浴室設置のきっかけになったのが『温室経(おんしつきょう)』という経典です。

 『温室経』(正式名称『仏説温室洗浴衆僧経』)は、天平8年(736)に、日本ではじめて写経がおこなわれたことが記録に残っています。『温室経』には仏の説法として、「七物」を用いて沐浴することで、「七病」を除き、「七福」を得ることができると説かれています。では、「七物」「七病」「七福」の3つの「七」はどのようなものでしょうか。簡単にみていきたいと思います。

 「七物」は、沐浴に必要な7つのアイテムのことで、①火、②水、③洗い粉、④芳香物、⑤洗剤、⑥歯ブラシ、⑦入浴時に着用する衣服、以上の7つです。

 「七病」は入浴によって解消される病気のことで、①肉体的な病気、②風邪、③手足のしびれ、④冷え性、⑤熱気、⑥不清潔、⑦だるさや眼の疲れ、を挙げています。

そして得られる「七福」は、①無病、②清潔、顔立ちも良くなる、③身体からの悪臭、衣服の汚れの解消、④肌のうるおい増加、⑤運気上昇、⑥口臭予防、⑦衣服が清潔できらびやかになる、と記されています。

 お風呂で歯磨きをされる方もいらっしゃるでしょう。七病に記されたものは、いわゆる入浴による療養的な効能で、適応症として現代に通じるところが多くあります。七福も入浴によって汚れを落として清潔になることや、気分的にもリフレッシュできることは、現代でも共通しているといえるでしょう。

 科学的な分析はもちろんない時代ですので、経験的に入浴の効能を理解していたと考えられます。方法やアイテムは変わっても、療養的な効能や精神的な効果なども含めて、入浴は現代人の私たちと奈良時代の人々、さらには仏陀にまでも相通じているといえますね。

 

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現在でも修二会の際に利用される東大寺二月堂湯屋(江戸時代初期の再建とみられる)

(都城発掘調査部研究員 福嶋 啓人

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