なぶんけんブログ|奈良文化財研究所に関する様々な情報を発信します。

身近にある「昔からあるもの」

2021年10月

 コロナ禍が続く中、しばらく帰省ができず、実家とはビデオ通話で連絡を取り合っています。画面越しとはいえ顔を見て話ができて、便利な時代になったなぁと実感すると同時に、もっと近くに住んでいたら直接会えるのにとも思います。思えば、私の実家は関東で、兄も私も県外へ出て生活をしています。さらにさかのぼれば、父は北陸から上京して就職し、我が家はニュータウンの核家族として生活してきました。そのためか、古くから続く伝統や歴史といったものから距離のある中で大人になってしまいました。

 一方で、自分のルーツとなる土地の文化について、振り返ってみたことがあります。子供の頃、お盆と年末年始の年2回、父の実家へ家族で帰省していました。正月は毎年雪とあられが降っていたことをよく覚えています。父の実家は城下町にありました。通りに面して1間程度の小さな出入口があり、中に入ると小部屋になっていて、奥には扉がもう一つありました。その扉を開けると通り土間が続き、土間の左には居室が並び、土間をさらに奥に行くと小さな中庭と、庭に面して土蔵が建っていました。典型的な町家建築の間取りであることに気が付いたのは、学生になって建築史の勉強を始めたときでした。入口の小部屋は、雪を払うための部屋で、豪雪地帯ではよく見られる空間です。父によると、この建物は昭和3、40年代に建て替えたもので、それ以前は「大梁の架かった大きな屋根の家だった」そうです。建て替えた後も、それ以前の間取りをほぼ踏襲していたということもわかりました。

 「もしかして、文化財って身近にあるのかもしれない」と、学んできたことと自分のルーツが繋がり衝撃を受けたことを覚えています。「昔からあるもの」とは無縁のまま育ったと思い込んでいましたが、ちゃんとその延長上に自分は存在していたのです。

 最近、もうひとつ衝撃を受けた発見がありました。近年継続しておこなっている奈良県内の社寺建築の調査の中で、室町時代中期に建てられたとみられる神社建築が確認されました。大和高田市に位置する十二社神社本殿(写真)で、一間社隅木入り春日造の建物です。中世に遡る建築が発見されたことも驚きでしたが、それが自宅から近く、研究所へ向かう通勤経路のすぐそばであったことも衝撃でした。まさかこんな近くに、こんな古いものが残っているとは思ってもいませんでした。

 皆さんの近くには、どんな「昔からあるもの」があるでしょうか。それは住んでいる家かもしれません。近所の神社かもしれません。子供のころから見てきたお祭りかもしれません。おばあちゃんの家の裏山にあるかもしれません。ぜひ、身近にある「昔からあるもの」を発見してください。

sahorou20211001.jpg

写真1 大和高田市十二社神社本殿

(文化遺産部建造物研究室長 大林 潤)

月別 アーカイブ