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古写真・発掘のススメ

2016年12月 

 みなさんのお宅には古~い写真が眠っていませんか?

 押し入れの奥底から、おじいさんとおばあさんの若かりし頃の写真が。あるいは何でもない近所の風景写真が。それはおそらく保存状態も良くない、古びた紙焼きされた写真たちでしょう。でも、もしそんな写真が出てきたら、今一度よく観察してみてください。思いも寄らぬ楽しい発見があるかもしれません。

 ある調査で一冊の本に出会いました。奈良の写真家・入江泰吉の「古都の暮らし・人」という写真集(図録)です。入江泰吉は奈良の仏像や四季折々の大和路の風景を撮影した写真家として有名ですが、この写真集に収められているのは、ごくありふれた奈良の街並みや人々を撮影した風景写真ばかりです。写真家本人は生前、これらの写真を発表しようとはせず、箱の中にしまい込んだままにしていたようです。

 大和路を写した美しい写真は評価も高く人気もありますが、私はむしろ、このなんでもない写真の方にこそ、おもしろさや価値を見出してしまうのです。人々の服装、髪形や顔つき、子供たちの様子、乗っている自転車・自動車、看板のデザイン、民家等々。その写真からは、入江泰吉が客観的に物事を捉えることに長けていたことが見て取れます。そして、それらの写真を眺めていると、まるでタイムスリップしたかのように自分の目で当時の奈良を覗いているような気分にさせられるのでした。

 写真はすべて昭和20~30年代、今から70年ほど前に撮られたものばかりです。奈文研で扱う時代と比べると、まるで昨日のことのようではありますが、それでも人や街の姿はずいぶん変わっているのがわかります。

 私が所属する写真室でもそうですが、歴史的に価値のある仏像や建造物は意識的に記録しようとします。それはそれでとても大事なことですが、それと同じレベルで、ただの日常風景の一コマが、数十年後、数百年後に振り返ったとき、そこには時代の断片がふんだんに写り込み、一転、貴重な文化の記録にもなり得ると思うのです。

 自分の住んでいる、または知っている土地の数十年前の風景写真を見るのは、とても不思議で楽しい体験だと思います。当時の面影がまったく無かったり、一本の大木だけ残っていたり、あるいは、意外と何も変わらずそのままだったり・・・。身近な古写真は、学問的にはともかく、知的好奇心をくすぐるきっかけになるものだと、この写真集に出会い感じました。

 そろそろ年末に向けて大掃除をするという方、ぜひ押し入れから古写真を発掘し、身近な歴史や時の流れを感じて、寒い冬ほっこりするのもよいかもしれませんね。

 

我が家で発掘された古写真.jpg

我が家で発掘された古写真

(左:筆者祖母の青春時代 1940年頃撮影)

 

 

(企画調整部アソシエイトフェロー 飯田ゆりあ)