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礎石からみた古代建築の上部構造

2019年8月

 奈良文化財研究所では、平城宮跡などを舞台に、失われた建物の復元研究をおこなっています。復元研究は、発掘調査で見つかった建物跡、その建物に使われた瓦や礎石などの出土遺物を中心として、関連する文献・絵画などの資料や、現存する類例建物の検討など、多面的な分析が必要です。復元研究の方法は、建物ごとに異なると言って良いと思います。今回は一例として、礎石に残された手がかりから、失われた古代建築の上部構造を検討する方法について、お話しします。

 礎石は、柱を据えて建物を支持するための石材です。礎石の上面には、「柱座」と呼ぶ造り出し(突出部)をもつものがあります。柱座は、柱を据える都合上、当然柱径より大きくなりますが(図1)、柱座の大きさと柱の太さとの間には、どんな関係があるのでしょうか。この関係がわかれば、礎石の柱座径から柱径を想定でき、さらに柱の上にのるさまざまな部材の大きさを考えることができます。これは、復元のための重要な情報となるはずです。

 日本国内には、奈良県を中心として60棟あまりの古代建築が現存しています。これらの現存建築のうち、礎石に円形の柱座をもつものは12棟あります。これらについて、礎石の柱座径と柱径との関係を分析しました。その結果、柱径は、礎石の柱座径の6割強~7割強程度で、それらの平均は、約3分の2となることがわかりました。つまり、柱径は、礎石の柱座径の3分の2が一つの目安のようです(図2)。これがわかれば、発掘調査で出土する柱座をもつ礎石から、その上に立っていた柱の太さを考えることができます。

 この結果を建物のつくり手の立場になって考えれば、礎石の柱座径は、柱径の1.5倍(2分の3)を目安に設計したものとみられます。復元研究は、単に類例の現存建築の形に倣うだけでなく、古代の人びとの建物のつくり方・考え方を知った上で検討することが重要です。それを知るには、現存建築や他の資料から、古代の人びとの建物のつくり方・考え方を読み取ることが必要で、それができてようやく古代の人びとに寄り添った建物の復元を考えることができると思います。それが復元研究の醍醐味の一つであると、私は思います。

 

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図1 礎石の柱座(例:東大寺転害門)
(『国宝東大寺転害門調査報告書』奈良文化財研究所、2003にもとづき作成)

 

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図2 礎石の柱座径と柱径との関係(断面図)

参考文献
目黒新悟「古代建築における礎石の柱座径と柱径との関係 東大寺東塔の復元研究1」『奈良文化財研究所紀要2019』奈良文化財研究所、pp.8-9、2019

(都城発掘調査部アソシエイトフェロー 目黒 新悟)

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