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ひかりで拓本をとる

2020年12月

 文字や図像は筆と墨を用いた色情報で表現されるだけではなく、石や金属の表面を加工して凹凸で表現されることがあります。これは金石文と呼ばれ、土器や木器、金属器など材質を問わず、石碑や仏像、梵鐘、通貨、レリーフ、刀剣などの様々な文化財に見ることができます。

 拓本は、この金石文など対象表面の凹凸を取得し、可視化を容易にするために使用される代表的な手法です。大きく分けて湿らせて採る湿拓と、水気を用いず採る乾拓とに分けられます。さらに、湿拓は対象に直接墨をつけて紙に写し取る直接湿拓、対象表面にあてた紙を水で湿らせ、その上からタンポなどで墨を付けていく間接湿拓に分かれます。乾拓は対象の上に紙を載せて鉛筆や墨でこすって表面の凹凸を取得するため、水気を使用しません。拓本は中国の唐代から用いられてきた優れた手法ですが、対象への接触が必須のため、どうしても対象を汚損する可能性が残ります。

 一方で、金石文を手軽に識別するだけであれば、斜めから光を当て、その影から文字や図形を推測する側光法が用いられます。側光法は簡易的な調査として重宝される手法ですが、当然のことながら光源を動かすと影も変形します。凹凸全体を把握するためには、影の形を覚えておかなければなりません。そこで、筆者は、撮影画像から影のみ記録し合成する技術「ひかり拓本」を開発しました。このひかり拓本で変化する影を順次記録し、最後に全ての影を合成すると、拓本と同程度の一枚の画像を非接触で作成できます【写真】。使用する機材は、デジタルカメラと三脚、画像処理用のタブレットPC、懐中電灯といったありふれた機材を用います。さほど細かな影を記録するのでなければ、デジタルカメラはスマートフォンのものでも問題ありません。基本的に画像であれば良いので、金石文に限らず、顕微鏡画像やマクロレンズ、望遠レンズでの撮影でも利用可能です。

 画像処理の所要時間は、画像の解像度やコンピュータの性能によりますが、一枚につき凡そ1~2秒前後のため、調査時にその場で画像を確認できます。画像を確認した後、影の不足分を追加することもできるので、満足できる拓本画像ができるまで、現地で撮影を続けることもできます。

 現在、この手法を誰でも使用可能にするための、Windows版のソフトを作成しています。また、撮影と画像処理を一つの機材で行うスマートフォン版など、順次公開していく予定です。

 

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【写真】左:通常撮影画像、右:ひかり拓本画像

(埋蔵文化財センターアソシエイトフェロー 上椙 英之)

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