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空から眺める北山杉の里

2017年3月 

 景観研究室では、北山杉の里である京都市北区中川北山町(中川地域)を舞台に、平成26年より受託事業として「北山杉の林業景観」の調査研究をおこなっています。

 調査研究の一環で、小型無人航空機(通称:ドローン)による空撮を実施しています。上空から北山杉の林業景観を眺めてみると、様々なことを読み取ることができます。

 中川地域の山に目を向けると、きわめて急峻で限られた谷筋の斜面で、集約的にスギの植林をおこなっているのがわかります。同じ品種・樹齢で同じ育て方をすることで一定のまとまりのあるかたまりを「林分」と言いますが、スギ林の林分がきわめて細かく分かれてモザイク状に配されていることがわかります。このモザイク状の林分が、現在の「北山杉の林業景観」の特徴と言えます。いっぽう、山にはスギ以外の樹木が生育している箇所も読み取れます。住民の方へのヒアリング調査により、昭和30年代までは薪炭林や尾根沿いのアカマツ林から薪炭、松材、松茸等、様々な林産物の生産もしていたことがわかりました。また、岩盤が迫り出してあまりの急斜面で利用に適さない土地が、広葉樹林帯として残っています。

 集落に目を向けると、清滝川が集落の中央の谷底を縫うように流れ、急峻な谷あいには耕作地はほとんどなく、ひな壇状に配された土地に北山型の民家が密集しています。瓦葺きの主屋に対し、杉皮剥きや「磨丸太」の丸太磨きをおこなう作業場であるスギ丸太小屋は、元来スギ皮葺きの軽い屋根でした。戦後の防火対策の一環で、スギ皮と同じ「軽い素材」であるトタン葺きに変わりましたが、上空から見るとトタン屋根のスギ丸太小屋が各地に点在していることがわかります。中川地域における北山林業は、今でこそ加工・流通体制の拡充に伴い大規模な工場が集落から離れた場所に立地していますが、かつての北山林業は個人経営が主で、林業に関わる仕事場が生活空間である主屋のすぐ近くに隣接していました。このように、生活空間と生業空間が混在した集落構造となっている こと が、空から眺めると一目瞭然でわかります。

 ドローンに対する意見は様々ですが、飛行エリアに応じた許可を得て、細心の注意を払い正しく安全に運用すれば、調査でも大きな力を発揮してくれます。 そして何より、地域住民の方々に空撮映像を見ていただくと、普段暮らしている地域を空から眺める機会はなかなかないのでとても喜んでくださり、調査研究を進める上での関係構築に効果を発揮してくれています。

 とはいえ、ドローンはあくまで手段の一つに過ぎず、鳥の目のみならず、虫の目のような綿密な調査研究をとおして、文化的景観の魅力や価値をお伝えしていきたいと思います。

空から眺めた北山杉の林業景観(京都市北区中川北山町).jpg

空から眺めた北山杉の林業景観(京都市北区中川北山町)

 

(文化遺産部アソシエイトフェロー 本間智希)