2018年7月
平城宮・京や寺院跡を発掘しますと、非常に大量の瓦が出土することがあります。例えば、平成15年に行われました法華寺の防災施設改修工事に伴う発掘調査(平城第363次)では、調査面積がわずか321㎡だったにもかかわらず、実に4t以上の瓦が出土しました。
さて、この「4t以上」という数値ですが、これを導き出すためには出土した8,500点超の瓦について、全点の「重さ」を量る作業が必要となります。もちろん、出土瓦の全体量を知るために重要な作業ではありますが、それだけではなく、出土瓦の「重さ」を分析することによって、これらの瓦がどのように葺かれていたかがわかってくるのです。今回はその手法をご紹介いたします。
①まずは瓦の種類ごとに総重量を量ります。②次に、それぞれの総重量を、完形の瓦1個体分の重量で割ります。③すると、その調査において、だいたい何個体分の瓦が出土しているかがわかるわけです。
そのデータをもとに、一例として軒丸瓦と丸瓦の個体数に着目した場合、どのようなことが考えられるでしょうか。通常、軒丸瓦は軒先のみを飾る瓦ですので、屋根全体に用いられる丸瓦よりは少ないはずです。ところが、丸瓦より軒丸瓦が多い場合があります。この場合、屋根全体の丸瓦そのものが少ないということになるので、屋根が短い塀のような建物が存在していたか、あるいは桧皮葺の棟などに用いられる「甍棟」(図1)があった可能性が考えられるわけです。
次に、丸瓦と平瓦の個体数に注目してみましょう。実例を挙げますと、西隆寺の発掘調査では丸瓦の個体数と平瓦の個体数の比率が「1:2.6」となりました。つまり、平瓦の方が丸瓦よりも2.5倍近く出土しているということです。これは自然なことで、雨漏りを防ぐためにも、平瓦は重なる部分が多くなるように葺く必要があるからです。
そこで問題になるのが、平瓦をどのくらい重ねて葺いたか、という点です。西隆寺の場合ですと、個体数の比率から考えて「丸瓦1個体の下に、平瓦が2.6枚分重なるように葺いていた」ことがわかります。このように葺くためには「丸瓦1個体分の長さ÷2.6」の数値を求め、その数値の分だけ、平瓦をずらして葺けばよいのです(図2)。西隆寺の場合、丸瓦の長さが32.2cmだったので、32.2cm÷2.6=12.4cmとなり、西隆寺の平瓦は12.4cmずつずらして葺かれていたと推定されます。
一見すると、このデータが何の役に立つのか、と思われるかもしれませんが、当時の建物を復原する際には非常に重要なデータとなります。例えば復原した第一次大極殿では、創建当時の瓦の出土量が少なかったため、第二次大極殿や恭仁宮大極殿のデータを参考にして、14.8cm(=0.5尺)ずつ、平瓦をずらして葺いています。
このように、出土瓦の重さを1点ずつ計測するのは非常に手間がかかる作業ですが、そのデータを積み重ねることによって、古代の屋根景観を復原することができるのです。
図1 甍棟(左:断面図、右:側面図)
図2 丸瓦と平瓦の葺き方(西隆寺の場合)
(都城発掘調査部主任研究員 林 正憲)