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装飾古墳 平成28年(2016年)熊本地震による被災と復旧の足取り

2020年1月

 2016年4月、震度7を観測する地震が九州地方を襲いました。中でも震源地となった熊本では、死者が50人に上るとともに、山崩れ、橋梁の崩壊、家屋の倒壊等、その被害は甚大なものとなりました。文化財についても、熊本城をはじめとした阿蘇神社等の文化財建造物の倒壊とともに、歴史的な文書や美術工芸品にも大きな被害が及びました。熊本県の心の拠り所ともいえる熊本城の復旧は、多くの寄付金を受けて徐々に進んできています。歴史的な文書や美術工芸品は、文化財レスキュー活動により被災現場から救出され、修復が進められています。

 熊本にはもうひとつ熊本を特徴づける文化財として多くの装飾古墳があります。彩色や線刻をもつ装飾古墳は、全国に600基ほど存在すると言われていますが、そのうち、なんと熊本県にはその1/3に相当する約200基もの装飾古墳が存在しているのです。熊本地震では多くの装飾古墳が被害を受けました。国の史跡に指定されている井寺古墳(嘉島町)では、石室を構築している積み石が崩落し、石室全体がいつ崩壊するかわからないほどの損傷を受けています。塚原古墳群(熊本市)の石之室古墳は家形石棺が倒壊しています。永安寺西古墳では、墳丘の上にかけられた保護覆屋が躯体からずれており、根本的な復旧工事を必要としています。御船町の今城大塚古墳は、墳丘全体に多くの亀裂が走り、石室が崩落しており、いまだにその被害状況が正確に把握できていない状況です。この他にも多くの装飾古墳が熊本地震により被災しているのです。まもなく4年が経過しようとしていますが、まだまだその復旧の目途が立っていない状況にあります。

 被災した装飾古墳の復旧はなぜ遅れているのでしょうか?ひとつには正確な被害状況を把握することが難しいということに起因しています。土で盛られた墳丘の中に石室という空間をもつ装飾古墳ですが、いつ崩壊するかわからない石室内部に入って被害状況を調査するにはあまりにも危険な状況にあります。また、一部の古墳を除いて、地震前の石室の形状に関する正確な計測データがないことも被害状況を正確に見積もることができないことの一因となっています。被害状況を正確に把握できなければ、復旧の方針を決めることができないのです。

 装飾古墳の復旧はどのように考えていけばよいのかという議論も進めていかなければなりません。崩落の危険性が高い石室を内部から支えるのか、墳丘の発掘調査をするとともに石室を解体して積み直しをするのか、災害の記憶を留めるために非公開として現状を維持するのか、様々な考え方があります。被災した装飾古墳をどのように復旧させ、後世に伝えていくのか、私たちの世代で何をどのような形で遺していくのか、考えていく時にあります。

 奈良文化財研究所では、熊本地震で被災した装飾古墳の復旧のために、まずはその被害状況のデータを得るために、多視点ステレオ写真測量(SfM-MVS)、SLAM技術、物理探査などの可視化のための技術協力、装飾を良好な状態で保存できる石室環境に関する調査、古墳の調査や保存に対する専門家派遣等、全面的に協力をしているところです。

 熊本の装飾古墳の復旧に向けて、皆様のご協力をよろしくお願い申し上げます。


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熊本地震で崩落の危機にある井寺古墳石室内部

(埋蔵文化財センター長 高妻 洋成

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