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平城宮跡を体感する

2016年8月 

 みなさんは、30年前の平城宮跡をご存じでしょうか。この頃は、内裏周辺のツゲの植栽による柱位置の表示、第二次大極殿の基壇の復原など、整備もまだ部分的で、大半は広い野原でした。近年では、発掘調査成果の蓄積を受け、兵部省・式部省では柱および壁や塀などを立体的に立ち上げる半立体復原、中央区朝堂院などでは基壇や礎石の復原、朱雀門や第一次大極殿、東院庭園などでは建物や庭園の復原をおこないました。どこにどのような建物が建っていたかがわかるような、さまざまな手法による整備を通して、平城宮が機能していた頃の姿がよりイメージしやすくなってきたと思います。

 こうした平城宮跡において、私が好きな風景の一つにあげるのは、扉を開放した朱雀門を通してみる第一次大極殿の姿です。単体の建物を見るのではなく、複数の建物を同時に見ることによって、建物どうしの関係が見えてくるからです。朱雀門と第一次大極殿が同じ南北方向の軸線上に建っていることは、ご存じのことと思います。ここで重要なのは、これを知識のみではなく、大きさや距離、つまり空間として体感するという点です。朱雀門と第一次大極殿の復原が完成したことによって、これが可能になったのです。

 朱雀門をはじめとする復原建物の原案は、発掘調査で確認した遺構や遺物のほか、東大寺転害門や薬師寺東塔、唐招提寺金堂などの現存する奈良時代の建物から、構造・様式・意匠などについて詳細な検討を重ねて完成しました。その上で、必要な構造補強等を施し、実際の復原建物が完成するのです。完成した建物からは、柱の太さや屋根の高さ、声の響き方など、CGやスマートフォンによる拡張現実(AR)では体感できない感覚を得ることができます。復原建物の意義の一つはまさにそこにあります。

 その上でさらに、私が重要だと思うのは、先に述べた、建物と建物の位置関係から生まれる空間を体感できることです。これを具体的に感じるために大切なのは、自宅や周辺の歴史的建造物など、普段体感している建物群の広さや高さを、自分の物差しとしてもつことだと思います。その物差しを対象の空間の中に置き、大きさや距離、向きなどを比べることで、空間がもつ特質をより明確に感じることができるのです。

 しかし、平城宮の中枢部を実感するには、重要な建物がまだ不足しています。とりわけ第一次大極殿を囲む大極殿院、つまり、大極殿院南門と、南門を挟んで建つ東楼と西楼、そしてこれらの建物をつなぎつつ、第一次大極殿を囲む回廊がないのは寂しく感じられます。大極殿院南門・東楼・西楼は、大極殿院南面を飾る二階建ての大建築です。大極殿院南門は二階を使用せず、東楼と西楼は二階を饗宴に使用したようです。このような大極殿院南門・東楼・西楼・回廊があった場所には、現在、奈良県が仮設の修景柵を設置していますが、2014年度から大極殿院の建物を復原する整備工事がはじまっています。完成には20年ほどの歳月を要しますが、南門・東楼・西楼・回廊が朱雀門や大極殿とともにどのような空間を構成するか、私自身その完成をとても楽しみにしています。

 

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朱雀門を通してみる第一次大極殿(筆者撮影)

 

 

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平城宮第一次大極殿院復原整備案1/200模型(国営飛鳥歴史公園事務所提供)

(都城発掘調査部アソシエイトフェロー 大橋 正浩)

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