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災害と文化財

2017年8月 

 日本は災害の多い国です。国土交通省のホームページの災害・防災情報を見てみると、平成28年には、地震12件、風水害9件、火山活動1件、雪害3件が掲載されています。この中には熊本地震や鳥取県中部地震、台風10号による水害があり、いずれも甚大な被害が報告されています。本年も7月に九州北部や中国地方で豪雨災害が起きました。災害が生じると尊い人命が失われるとともに、生活に欠かすことのできない住居、水光熱や交通等のインフラが失われてしまいます。災害により失われた生活をできるだけ早く取り戻せるように復旧復興は進められなければなりません。

 災害によって文化財もまた大きな被害を受けます。都道府県や市町村の教育委員会では、発災直後には人命救助や避難所対応に追われるため、文化財の被害状況の把握には時間がかかることもあります。指定・登録されている文化財は、リストを基にその被害状況を把握することができます。しかし、文化財は指定・登録されているものだけではありません。未指定・未登録のものであっても、歴史的価値、芸術的価値、学術的価値等が認められるものは文化財です。これらは個人所有のものが多く、その所在は必ずしも明らかとなっているわけではありません。被災したこれらの文化財をいかに救い出すか、大きな課題です。

 少し視点を変えてみたいと思います。東日本大震災では、津波に襲われ瓦礫と化したお宅で、写真や故人の思い出となるものを探しだそうとする多くの方の姿がありました。また、「お祭り」の道具を探し出し、修理をして、「お祭り」を復活させることで、絆を取り戻し、町の復興を進める力とする取り組みもたくさんおこなわれました。人と人との絆、故郷との絆、町と町との絆、これらは私たちが日ごろ何気なく生活している中で忘れがちでありながら、とても大切なものです。これこそが、「文化」というものかもしれません。

 「文化財」は人類共有の大切なものということで、日常的には「宝物」として扱われます。それは「自分たちのもの」というよりも、「宝物」としての物珍しい貴重な存在として公的な機関等が管理するべき存在になり、自分たちからは遠い存在となってしまっていないでしょうか?「私の大切なもの」の延長に、みんなが大切なものと思えるものがあり、「文化財」という存在になるものもあると思います。「地域の文化財」と呼ばれるものです。「地域の文化財」は脆い存在です。災害で失われやすい「地域の文化財」、一度失われてしまうと「地域のアイデンティティ」や「地域のコミュニティ」を復活させることが難しくなります。その反面、被災した「地域の文化財」を取り戻すことは、その地域の復興を強く推し進める力となります。

 熊本地震で大きな被害を受けた熊本城の復興を多くの方が願っています。熊本城の復興は、熊本の復興の象徴となるものです。しかし、熊本城以外にも、各地域に大切な「地域の文化財」があります。被災した「地域の文化財」を復興させることは、地域の豊かな復興につながるものと思います。

(埋蔵文化財センター長 高妻 洋成)

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