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「遺跡の数」から見た奈良県

2022年6月

 奈良文化財研究所は今年で創立70周年を迎えますが、その間、実に数多くの遺跡を発掘してきました。しかし我々が発掘した遺跡は、奈良県全体から見るとごく一部の遺跡であり、その他にも各自治体等が発掘してきた遺跡は無数に存在しています。それでは奈良県全体、ひいては全国にどれほどの数の遺跡が存在しているのでしょうか。このコラムでは全国の「遺跡の数」に注目するとともに、我が奈良県の状況について、その特徴を明らかにしたいと思います。

 文化庁が刊行している『埋蔵文化財統計資料』の令和3年度版を見ますと、全国の遺跡数(=文化財保護法第93条において定める「周知の埋蔵文化財包蔵地」数)は472,071遺跡となっています。これを日本の国土面積(=約378,000㎢)で割ると、1㎢あたり1.2遺跡が存在していることがわかります。

  奈文研が所在する奈良県では13,238遺跡が確認されていますが、遺跡数の都道府県ランキングでは13位と、意外と順位が高くないことがわかります(表1)。ただし、この遺跡数を各都道府県の面積で割ると、奈良県は1㎢あたり3.59遺跡で、全国平均(=1.2遺跡)の約3倍です。都道府県ランキングでも6位に浮上し、やはり遺跡の多い地域であることがわかります(表2)。

 次に、遺跡の種類や時代別に見ていきましょう。全国で最も多い遺跡の種類は、人間の痕跡が残りやすい集落跡(散布地含む)で、実に196,349遺跡が確認されています。これを時代別に見ますと、最も多く確認されている集落遺跡は縄文時代(91,637遺跡)のもので、次いで古代(60,667遺跡)、古墳時代(43,268遺跡)、弥生時代(35,946遺跡)と続きます。それでは縄文時代の遺跡数が全国で最も多いか、というとそうではないのが面白いところです。縄文時代の遺跡数は全種類あわせて95,103遺跡で第2位であり、第1位の遺跡数を誇る時代は、207,511遺跡を数える古墳時代なのです。

 これを奈良県で見てみましょう。奈良県における最も多い遺跡の種類は9,663遺跡を数える古墳・横穴で、これは県内全遺跡数の実に7割以上を占めています。県内の集落遺跡は2,028遺跡と古墳に次いで多いのですが、その4割超は古墳時代の集落(874遺跡)なのです。したがって、奈良県を代表する遺跡は古墳時代のものだということわかります。奈良県では「山を見たら古墳と思え」というフレーズがありますが、このような遺跡数の多さを実感としているからこそ出てくるフレーズなのかもしれません。ちなみに、奈文研が主な調査研究対象としている古代の遺跡に注目すると、県内では1,247遺跡を数えます。数字だけ見るとかなりのものですが、比率で見ると県内全遺跡数の1割に満たないのです(約9.4%)。

 このように、奈良県内のみならず日本全国において多種多様な遺跡が数多く存在することがおわかりいただけたと思いますが、これも全国各地で地道な発掘調査が実施されてきた結果、明らかとなったことなのです。今後も多数の遺跡が発見され、我々の歴史がより深く理解されるようになることでしょう。

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(都城発掘調査部飛鳥・藤原地区考古第三研究室長 林 正憲)

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