2018年10月
最近、我が家では子どもと一緒に「十六むさし」というゲームで遊んでいます。 十六むさしとは、四角と三角の外枠に縦横斜めの線を引いた盤面(図1)の上で、親駒と子駒を交互に動かして遊ぶ対戦ゲームです。親駒1個、子駒16個でゲームを開始し、親駒が子駒の間に入ったら子駒を捕って数を減らすことができ、逆に子駒が親駒を囲んで動けなくしたら子の勝ちです。似たようなゲームは西洋でも「キツネとガチョウ」ゲームとして知られています。
十六むさしは江戸時代に流行し、町人や子どもが遊ぶ姿が浮世絵などに描かれていますが、明治時代以降に廃れてしまい、現代ではほとんど遊ばれていません。
では、なぜ我が家で今、十六むさしで遊んでいるのか。それは、十六むさしが古代の盤上遊戯「八道行成」に由来するゲームと考えられていることに理由があります。
八道行成とは、平安時代の『和名類聚抄』に遊戯のひとつとして記載されており、「やさすかり」と呼ばれていました。八本の線を引いた盤面上で駒を動かすゲームだったようですが、詳しいことはわかっていません。
十六むさしと八道行成の関係は、江戸時代以来考証がおこなわれており、十六むさしの四角形の部分が八道行成の盤面にあたると考えられています。しかし、この説に対して異論もあり、定説とまでは言えないようです。
私は両者の関係について、実際に遊ばれていた十六むさしと八道行成の盤面を比較することで明らかにできるのでは、と考えています。特に遺跡から出土する資料で盤面の年代が明らかになれば、盤面と遊び方の変化を追うことができ、逆に十六むさしから遡って八道行成の遊び方も復元できると思うのです。
ところで、平城宮・京から出土する土器のなかには墨や線刻で記号を描いたものがあります。その中には、縦横の線を方眼状に引いた記号もあり、なんとなく十六むさしの四角形と似ているような・・・。また、有史以前から文化交流の深い朝鮮半島では縦横斜めの線を引く盤面で碁石を動かす「コヌノリ」(図2)というゲームがあり、これまた十六むさしの四角形と似ているような、似てないような・・・。
遊びは、遊ぶ人間が面白いと思う方向に改良が加えられて少しずつ変化していきます。その過程では別の遊びを参考にして遊び方が変化することも考えられます。また、面白くないと思われるとあっという間に廃れて遊び方も分からなくなってしまいます。
このような遊びの変化の過程を読み解くためには、モノの変化を観察して過去の人間の活動を読み取ることが得意な考古学の出番もありそうです。
現代には伝わっていない「八道行成」で遊んでみたい。そのために、まずは十六むさしで遊んでみて、どこかに八道行成の解明に繋がるヒントが隠れていないか調べてみよう!
・・・そんなことを色々考えているうちに、私の動かす親駒は、あっという間に子どもの駒に取り囲まれてしまいました。あ~あ。
図1 十六むさしの盤面(酒井欣『日本遊戯史』1933年より転載)
図2 コヌノリの盤面(朝鮮総督府『朝鮮の郷土娯楽』1941年(初版)より転載)
(都城発掘調査部研究員 小田 裕樹)