2021年8月
Minecraft(マインクラフト)はビデオゲームの1つで、サバイバル生活や洞窟探検に挑んだり、狩猟採集・牧畜・農業・採掘に勤しんだり、立体的なブロックを自由に配置して家々を建築したり、道路や街灯を整備して街づくりに熱中したりと、好きなように世界を楽しむものです。
大人の皆さん、たかがゲームと侮るなかれ。このゲーム、なんと2億本も売れていて、統計の取り方によっては世界一の販売本数を誇ります。おうちで独り楽しむだけなく、離れた友達とオンラインで一緒に同じ世界で遊ぶこともできるゲームです。さらに、学校教育の場ではプログラミングや地理・地学、共同学習などに導入するなど、近年注目を集めるSTEAM教育(Science, Technology, Engineering, Art, Mathematics)の実践に利用されており、単なる「ゲーム」を超えたツールといえます。
実は最近、僕はこのMinecraftを利用した遺跡体験の試みに取り組んでいます。遺跡の発掘調査の基礎的でもっとも大切な作業の1つは、発掘調査で得られる様々な情報の記録です。検出した柱穴やゴミ穴の痕跡、道路や水路の跡、地震や津波の痕跡、土の触感や色、出土した遺物の位置など、これら様々な遺跡の生の情報は調査中のその場・その時しか観察や記録ができないので、調査者は質の高い調査にしようと懸命にこれに取り組みます。そうして記録された遺跡の詳細な情報を遺跡や歴史の調査研究に利用するだけでなく、より多くの人が楽しめるようにして、地域の歴史や自然そして文化財に興味をもってもらう機会にしたい。これが、Minecraftを利用した遺跡体験のねらいです。
実際、Minecraft上での文化財の再現は、平城宮・平安京・大阪城など、いくつもの先例があります。ただし、発掘調査時に記録した詳細な三次元データなどを利用して遺跡の姿をMinecraft上で再現する、というものはあまり見かけません。もしそんなことができたら、とっても面白そうじゃないですか?
幸い、奈良文化財研究所では三次元計測を利用した発掘調査の記録も蓄積があります。平城宮東方官衙地区で2020年から2021年に発掘調査を実施した平城第621次調査では、大型基壇建物の区画の築地塀や平城宮内の基幹排水路、石組暗渠・木樋暗渠などを確認しました。これらの記録にも三次元計測を利用しています。
そこで、この三次元データをMinecraftの世界を表すようなブロック(ボクセル)に変換して発掘調査の現場を再現し、ユーザーが操作するプレイヤーを登場させてみました。さすがに見た目は本物にそっくり。1つ1つのブロックはボクセルなので、内部に土の種類や土器や瓦・木簡などの情報を含ませて、遺跡の再現を深めることができます。そうすると、ブラシで土を掃って礎石や柱穴を検出したり土器や瓦の破片が出土したり、そんな世界ができるはず。Minecraftの中で誰でも遺跡を発掘できちゃうかも。いや~楽しみです。
図1 平城第621次調査で計測した平城宮跡東方官衙地区の三次元データ
図2 遺跡の三次元データをブロックにしてMinecraft風に再現
参考文献
奈良文化財研究所 都城発掘調査部(平城地区)2021「004 平城宮東方官衙地区の調査(平城第621次調査)」
2021年7月10日確認
関連リンク
【公式】なぶんけんチャンネル
https://youtu.be/aRicezI6l1k
(埋蔵文化財センター研究員 山口 欧志)