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フタの裏には何がある?

2018年12月 

 すっかり季節は冬になり年末が迫ってくる中で、温かい紅茶や茶碗蒸しが美味しい時期になりました。その紅茶のポットや茶碗蒸しの容器のフタを、裏返しにしてみてください。写真の右側のように、フタそのものよりも一回り小さな径で、円筒状の突起をもつものがありますね。この突起は古代の須恵器にもあり、私たちはこの部位を「かえり」と呼んでいます。

 須恵器のフタの「かえり」は、時代が進むとともに小さくなり、ついにはなくなってしまう部分であるため、その須恵器がどの時代のものなのかを判断するための材料の一つにもなります。

 私は今、日頃そうしたフタを実測し、表面に残っている製作痕跡を詳しく観察して、図に書き込むという作業をしているのですが、一体「かえり」はどうやって作り出されているのか、ということを常々考えていました。
 「かえり」は、一見するとフタ本体に細い粘土紐を貼り付けているかのようですが、ソバのように細い粘土の紐を作って、それを本体へ均等に貼り付けるのは、実際のところ大変面倒な作業です。そんなことをしていたのでしょうか?
 写真の左側を見てください。「かえり」の断面形状をよく観察してみると、突起の外(左)側の付け根は滑らかな曲線を描いているのに対して、内(右)側の付け根はくぼんでいるように見えます。これは突起部分をつまんで成形しているのではなく、側面を外側から押すようにして成形していることを示しているのではないでしょうか。

 こうした痕跡の観察から、「かえり」はフタとなる器の縁を内側へ折り込むような形で作られたと考えることができます。もっとも、理論の上ではそう解釈できても、ロクロを回した経験がない私は、実際にどういう動作で作られるのかが実感できず、曖昧さを残したままでした。

 そうした中で先日、土器の研究をしている考古第二研究室のメンバーで、古代の須恵器の一大生産地「寒風古窯跡群」があった、岡山県瀬戸内市の「寒風陶芸会館」を訪問しました。
陶芸作家の方々と須恵器の製作方法について意見交換し、陶芸作家の末廣さんに「かえり」のついたフタの製作実演をしていただきました。古代には手回しのロクロを使用していましたが、実演では電動ロクロを使っています。

 動画をご覧いただくと、椀形に成形した器を徐々に浅い皿状に変形させながら、口縁部を内側へ折り込みつつロクロを挽くことによって、「かえり」を作り出すことができることがわかります。
 これが古代の須恵器の作り方であったと即断することはできませんが、自分が考えていた方法で実際に製作可能だということがわかっただけでなく、「かえり」を作り出す過程で器全体の形を変化させているのではないかという新しい発見もありました。

 まさに「百聞は一見に如かず」です。

 古代の人々の製作過程の復元を目指した土器観察は、これまでも心がけていましたが、今回の製作実演を見たことによって、その過程をより具体的に思い描いた土器観察が可能になりました。


 

 今回製作実演をしていただいた寒風陶芸会館では、国指定史跡寒風古窯跡群から出土した須恵器や鴟尾が保管・展示されており、ロクロを使った器作りの体験もできます。
 来年の1月から2月には復元須恵器窯による須恵器焼成の実験が予定されているそうです。
 詳しくは同館のホームページ(http://www.sabukaze.com)をご確認ください。

 

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古代の「かえり」(左)と現代の「かえり」(右)

 

 

(都城発掘調査部アソシエイトフェロー 土橋 明梨紗

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