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新庁舎に眠るお宝

2019年10月

 奈文研では、1952年(昭和27年)の開所以来、発掘調査はもとより、私が関わる建造物をはじめ、さまざまな分野の調査研究をおこなってきました。これら成果は、報告書、年報、紀要等、さまざまなかたちで世の中に発表されています。とはいっても、発表された成果は、実際に調査した内容の一部にすぎません。たとえ数ページの文章、数枚の図や写真しか世に出ていないとしても、その裏に現場での膨大な作業が隠れています。

 調査では、現場で現物を見て、文字、図、写真によって、調査した時の現状を客観的に記録するように心がけています。調査者が、「こんなことがわかった」と満足する記録でなく、調査にあたった調査者以外の人が、調査者と同様に調査を追体験できるような記録を作成することに努め、その記録を大切に保管しています。たとえば、私が関わる建造物研究室でも、現場で作成した記録は、調査者が保管するのでなく、研究所として保管するという原則があります。現地では、定型の用紙に記録することを原則とし、諸事情でメモ書きのような記録となった場合でも、そのメモ書きを定型の台紙に貼り付けて保管するよう徹底しています。記録としては、現地で現物を見ながら記録したということが何より重要なのです。

 昨年10月に当研修所は新庁舎に引っ越しをしました。外観上は結構おおきな建物ですが、研究室等の人間のスペースは旧庁舎と同程度か、狭くなったかもしれません。じつは、新庁舎は、中央部がおおきな収蔵庫で占められ、奈文研所蔵資料、図書資料、そして調査記録等が収納され、そのまわりに部屋が貼り付くような構造となっています。

 収蔵庫には、開所以来70年間近くにわたり、多くの所員が現場で暑さ寒さに耐えて作成した記録が整理され、保管されています。過去の調査を異なった視点で再検討する場合や、関連する調査の参考とする場合には、これら現場で作成した記録は欠かすことができません。また建造物関係では、過去の調査対象の自治体等から、過去の調査物件について報告書に記載されていない内容の問い合わがあった場合でも、すぐに記録を確認して回答することができます。場合によっては、調査後に取り壊された物件の記録もあり、現場で作成した記録の重要性はますます高まっていきます。

 これら、新庁舎中央部に眠る現場で作成した記録こそが、研究所にとっても文化財業界にとってもお宝であり、将来その価値がますます高まること間違いないお宝なのです。


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新庁舎収蔵庫内部:キャビネット内に調査記録がファイリングされて収納されいます。

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調査記録事例:現場で作成した記録は、散逸しないように、定型のファイルに綴じて収納しています。

(文化遺産部長 島田 敏男

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