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「骨ものがたり-環境考古学研究室のお仕事」の舞台裏

2019年6月

 現在、飛鳥資料館では、春期特別展「骨ものがたり-環境考古学研究室のお仕事」が開催されています。(4月23日~6月30日)

 環境考古学とは、遺跡から出土する動植物遺存体(骨や種子など)の調査を通して、昔の生活環境や食生活、生業など、人と自然がどのように関わりながら生きていたのか、その歴史を明らかにする研究分野です

 普段は研究成果そのものを公開したり展示したりすることが多い中、今回の展示ではその舞台裏、どのような過程をたどり研究成果を得られたのか、研究員は毎日どのように研究と向き合っているのか等々にスポットを当てました。

 さて、わたしは奈文研写真室で文化財などの写真撮影をしていますが、飛鳥資料館の展示に関わる業務も行っています。今回は展示図録に掲載する写真と展示室に掲示する写真を担当しました。研究をわかりやすく伝えるため、また、研究室の雰囲気を一般の人に感じてもらうには写真は有効な手段です。しかし、ただ撮れば良いというわけではありません。研究のひとつの過程を写真1枚で表現するのはとても難しく、また、表現できたとしても写真として完成されていなければ満足できません。担当学芸員と毎回「うーん、なんか違いますね。もっと抜け感がほしいですね...」などの議論を重ね、何度も何度も撮影に出向き、試行錯誤を繰り返しました。図録の最初のページでは、これからものがたりが始まるような雰囲気が出せるように、早朝の研究室を撮影しました。刻一刻と陽の光が変化してしまうので焦りながら撮影したのを覚えています。この章にはどんな写真が必要か、イメージはあるけど具体的な発想を形にするまでに、学芸員やグラフィックデザイナー、いろいろな人のアイディアが詰まっています。撮影期間は1年半、撮影枚数は約3,000にも及びます。時間をかけた甲斐もあって、図録も展示室も充実した内容になっています。

 今回の展示は飛鳥資料館学芸員と環境考古学研究室の研究員が主体となり、そしてグラフィックデザイナー、展示設計士、展示造作業者、カメラマン等々、展示に関わる全ての人が、それぞれの技術やアイディアを惜しみなく注ぎ込んで作り上げました。そこには担当学芸員の「歴史や考古学を身近に感じてほしい」「ひたむきに研究に向き合っているたくさんの研究員がいることを知ってほしい」という熱い思いが根底にありました。

 展示室には、ちょっと難しそうな「骨から読み解く歴史」にも、面白い仕掛けやわかりやすいコンテンツがたくさん用意されています。ぜひ、初夏の飛鳥巡りで飛鳥資料館の「骨ものがたり」に足を運んでいただけると嬉しいです。

 

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展示室入り口には縄文時代の巨大マグロ原寸模型がお出迎え

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展示室には実際の研究室を再現

(企画調整部写真室技術職員 飯田 ゆりあ)

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