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「生」の食品と加工した食品

2020年6月

 「生(なま)」の対義語は「加工」です。でも、古代において煮たり焼いたり蒸したり漬けたりした食品をぜんぶひっくるめて「加工」食品とは言いません。荷札・付札木簡などを眺めていると調理した食品にはその加工法が記されていることが多いように思います。

 アワビはさまざまな加工をして都にもたらされました。「焼鰒」「蒸鰒」などの加工調理したアワビの木簡のほか、「生鰒」の木簡も出土しています。「生」と聞くと活アワビのお造りなどを想像してしまいますが、生きた新鮮な、という意味ではなく、加工したアワビと区別した表記で、未加工を意味すると捉えたほうが良さそうだと考えています。

 「熟鰒」という木簡があります。「熟」は加工方法を示しているのだろう、というところまでは容易に推測できます。しかし、具体的に何かと問われるとその先に進むのは簡単ではありません。現在、「熟」は成熟という言葉のように、「うれる」という意味がまっさきに思い起こされますが、半熟という言葉のように、「にる=煮る」という訓と意味でも使っています。平安時代の古訓を探してみると、「アツク、ウマシ、ナル、ニギル、ニユ、ニイル、ミノル、カシク」などの訓が使用されたことが分かります。「ニユ=煮ゆ」は古くから用いられてきた読み方だということです。煮る、という意味ならば「熟鰒」は「煮アワビ」と理解できるかもしれません。

 「生」と「熟」は対応して用いる事例もありました。正倉院に伝わる米を支給したときの文書に、「生料」と「熟料」が見えます。「生料」は生米のままで、「熟料」は調理した米で支給したもの、という考え方が一般的です。

 先に挙げた「熟」の訓のなかに、「カシク」があります。「かしく=炊(かし)く」で米を炊くことを意味します。「熟料」は「にる」よりも「かしく」の意味かとも思えます。実は「煮」の古い訓にも「カシク」という訓があります。東北地方や中部地方の一部には飯(めし)をニルと表現する地域があります。「煮」と「熟」は非常に近しい意味で用いられているようです。

 古代の「生」の食品と加工した食品について、アワビの木簡と正倉院文書の記載を取り上げてみました。「熟」や「煮」、「焼」、「蒸」以外にも、「漬」「鮓」「干」「塩」「押」のように調理に関わりそうな語や「長」「短」「大」「薄」「角」など形態に関わりそうな語もあります。今後も、食品名に付加される形容詞的な語に着目し、古代を具体的に想像できる手がかりを探していきたいと思います。

 

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平城宮・京跡出土のアワビの木簡
画像左端上が「生蝮(鰒の意)」、その下が「熟鰒」。

(都城発掘調査部アソシエイトフェロー 藤間 温子)

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