なぶんけんブログ|奈良文化財研究所に関する様々な情報を発信します。

実測道具にも歴史あり

 奈良文化財研究所設立70周年・平城宮跡史跡指定100周年の節目の年に奈良文化財研究所野帳が誕生しました。野帳の表紙には平城宮跡第1次調査の図面や出土瓦と合わせて、奈文研が発掘調査で使用してきた道具や記録簿などをレイアウトしています。そこで今回の作寶楼では、奈文研オリジナルの実測道具を紹介したいと思います。

 奈文研では、発掘調査を効率的に進めるため、測量や実測道具にさまざまな工夫を重ねてきました。例えば、平城京域や飛鳥・藤原地域には、東西3m×南北3mのグリッドを一単位とする「地区割」を設定し、各グリッドごとに「6ABO AK38」のような地区名をつけています。この地区名に、土器や瓦などの出土地や、穴や溝などの遺構の位置を示す住所のような役割をさせているのです。発掘調査の際には、ラベルを地面にピンで留めて、地区名をわかりやすくしています(写真1)。

 また、発掘調査で図面を書く時に使う、3mのものさし「間竿(けんざお)」も奈文研オリジナルです。素材はなんと窓枠材。アルミニウム製で中空のため軽くて便利です。図面を書く時は、下の写真2のように間竿を縦横に組み合わせて、東西・南北の長さを測っていきます。

 現場の標高を測る際は、レベルという測量機器を使用します。この時に活躍するのが「コサックテープ」と通称する奈文研オリジナルの標高直読用シールです(写真3)。このテープがあれば、細かい計算をせずに、標高をレベルから直接読み取ることができ、測量を効率的に進められる優れものです(写真4)。

 発掘調査が終わると、遺構は埋め戻されて直接見ることはできなくなります。だからこそ、どこにどんな遺構があり、どんな遺物が出土したのか、遺構の位置や標高を実測して正確に記録していくことは、その土地の歴史を後世に伝えていくために大切な仕事なのです。

 奈文研は長年にわたる発掘調査の中で、効率的な実測方法を模索してきました。何気ない実測や調査の道具にも、奈文研70年の調査研究の歴史が刻まれています。

写真1 地区名を表示するラベル

写真2 間竿を使った実測

写真3 コサックテープを貼った間竿

写真4 レベルとコサックテープを使った標高の測量

(都城発掘調査部主任研究員 西田 紀子)

 

奈文研の測量をもっと詳しく知りたい方にオススメ

「平城京跡発掘調査要綱」『奈文研学報25 平城京左京三条二坊』1975年、51頁~52頁
https://sitereports.nabunken.go.jp/ja/62904

「平城宮・京の発掘調査地区割り」『1989年度平城宮跡発掘調査部発掘調査概報』1990年、2頁~6頁
https://sitereports.nabunken.go.jp/ja/14688

「測量法改正(世界測地系導入)に伴う測量業務の対応」『奈文研紀要2005』2005年、22頁~23頁
https://sitereports.nabunken.go.jp/ja/14507

遺構研究室の紹介 https://www.nabunken.go.jp/org/tojo/arch.html

文化庁文化財部記念物課編『発掘調査のてびき―集落遺跡発掘編―』2010年、226頁~240頁
http://opac.nabunken.go.jp/detail?bbid=SB00350955

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