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彩色文化財保存へのアプローチ

2017年6月 

 みなさん、日々、色を意識して過ごしていますでしょうか?

 色のない世界を想像してみたらどうでしょう?私たちの日常に広がるさまざまな彩色は、元となる素材に手を加えられたもの、つまり「make・メイク」されたものです。「色をMakeする」こと、それは例えば、顔を装い飾る「化粧」もあれば、建造物や工具類が土台となり、その表面を意図的に彩る「塗装」もあります。このように、あらゆる場所にMakeされた色が存在し、私たちは数えきれないほどの色に囲まれて暮らしています。

 文化財にとっても、Makeされた色の保存と修復はとても重要です。なぜなら、表現された色は、呪術的行為の産物として歴史的・学術的価値を有するものや、鑑賞用としての芸術的価値を有りするものまで当時の技術水準を語るうえで非常に重要だからです。その他、建築物の柱や壁などに描かれる色彩は、部材の保護膜としての機能を果たす場合もあります。このように、木材、石材や紙類といった、さまざまな素材からなる文化財に描かれた彩色自体もまた、広義としての「文化財」といえ、我々は「彩色文化財」と呼んでいます。

 こうした彩色を文化財科学の視点でみてみると、長い年月の間、紫外線や風雨にさらされたことが原因で、変退色や剥離、および剥落や生物劣化などが生じて、本来あったであろう姿とは大きく異なっている場合が多く見受けられます。彩色を保存修復するにあたっては、「彩色の現状はどうなっているのか」、「どのように保存するか」といった問題に直面します。そのため、素材の性質を正確に把握し、その劣化状態を知ることが、最初の重要な作業になります。しかし、彩色文化財の診断調査方法は、多種多様な環境に置かれている彩色文化財に対応しきれておらず、いまだ道半ばの段階です。多くの調査では、最表面の彩色層に偏っていることが多く、非破壊構造調査を含め、現場での調査では、まだまだ課題が多い状態です。

 彩色文化財の診断をするうえで最も難しいことは、重なって構成される彩色の情報を、一層ごと丁寧に読み解いていくことです。彩色の構成には、木材、石材や紙類といった絵を描くための土台、その土台の上に絵具(顔料や染料のような材料)を接着させるノリや膠のような接着剤、さらに発色をさらに良くする役割を果たす漆喰または胡粉などの下地、そして表面に見える絵具まで、少なくとも4つの機能を果たしている層があります。このように、彩色文化財は多種多様な材料や技法が織りなされて表現されているのです。

 彩色文化財の保存を考える際、どのように診断して正確な情報を把握するか、適切な調査方針を考えて実行することが、次なる作業へ大きく影響します。そのため、奈良文化財研究所では、彩色素材の物理的および力学的な性質を把握して、相互の関係性を考察する研究を進めるとともに、現時点で得られる情報を正確に診断する方法、また構造調査から保存修復法へといたる作業工程の確立を目指し、日々、Make中です。

 

彩色の劣化パターン.jpg

彩色の劣化パターン

(埋蔵文化財センターアソシエイトフェロー 金 旻 貞)

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