なぶんけんブログ|奈良文化財研究所に関する様々な情報を発信します。

古いアルバムの中の

2022年10月

 皆さんのご家庭にもあるでしょう。古いアルバムが。几帳面な方だとアルバムに貼ってある写真の下に「何月何日、どこそこで誰と誰が写っている」などタイトル的に貼っておられる方がいらっしゃると思います。貴重な思い出の写真を子どもたちに受け継いで、いつかアルバムをめくって思い出に浸ることがあると思います。

 実はこれが文化財調査の記録にもつながります。私たちが文化財の調査に携わる上で切っても切れない重要な部分が「記録」です。この記録は将来にわたって自分たちがいなくなった後でもその情報を最大限引き出すことが必要です。そのためには様々な記録に対して情報を盛り込むことが重要です。特に私が携わっている写真記録はこの「タイトル的」な情報が非常に重要になります。

 現在では写真記録のほぼ全てがデジタル画像として保存されますが、約10年前まではそれらは全てフィルムで保存されてきました。フィルム自体には情報を書き込むスペースは非常に小さなスペースしかありません。従ってその整理と保存方法が非常に重要でした。それぞれのフィルムには上述のように小さな余白部分があり、そこに写真番号を書き込みます(写真1)。この写真番号と対照する「写真台帳」が作成され、台帳にはタイトルや分類、誰がいつ何のために何を撮影したか、キーワードや撮影者など沢山の情報が書き込まれます。さらにこの台帳に対して、キーワードや分類などをもちいて「検索カード」(写真1)が作成され、例えば「○○寺」や「発掘」「遺跡名」「遺物名」など様々なカードが作られて検索可能な状態となります。

 フィルムはデジタル画像と違い、光に透かしてみればすぐに何が写っているか確認出来ます。フィルムを探すときには保管してある場所でフィルムをめくっていけば欲しい写真に到達できるのではと考えてしまいますが、奈文研では研究所設立の1952年から撮影された数十万点のフィルムが存在しており、例えば撮影年など少ない情報でフィルムを探すのは非常に困難です。また、フィルムは温度・湿度の環境変化や手に取ることで付着する脂分に非常に弱く、探す時間をいかに短縮できるかが保存性の点で重要になります。目的のフィルムに短時間で到達するためには事前に保管された場所と登録番号をあらかじめ把握することが求められます。

 この考え方はデジタル画像で記録する現在でも同様で、フィルム台帳での情報はそのまま「データベース」(写真2)の形となり、より素早く検索して必要な画像をいつでも利用可能な状態となっています。例え調査者や撮影者がいなくなった時代になっても調査での記録が引き出せ、その記録を使って再調査や報告書の出版まで出来るような情報を盛り込むことが私たちに求められるのです。

 ただ、調査の上で非常に多くの業務に追われ、なかなか詳細な情報を盛り込むことが難しくなりがちな現在です。出来るだけ時間を作って多くの情報を盛り込むようにしたいとは考えていますが・・・。

 現代では皆さんスマホやデジタルカメラで撮影した写真は雲の上(クラウド)に膨大に保管されている時代です。その写真には「いつ・どこで」と言った情報が記録されて、並べられた状態で見ることが出来ます。さらに進んだAIの技術は顔認識で「誰が写っている」まで整理してくれます。便利な世の中です。長く続いてくれることを願います。

 それ以前の写真にも思い出が沢山詰まっていることと思います。皆さんも古いアルバムをめくって記憶にあるうちに整理をしてみましょう!思わぬ発見があるかもしれません。

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写真1 アナログ的な検索カードと写真フィルムの番号

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写真2 現在運用中の写真関係データベース

(企画調整部専門職員 中村 一郎)

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