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ところ変われば箕 (み)も変わる? カンボジアの発掘道具

2023年3月

 奈良文化財研究所は様々な国や地域と共同で文化財の保存修復や技術協力・研究調査を通じた事業を行っていますが、カンボジアとは30年来のお付き合いがあります。現在、奈文研ではアンコール遺跡群の中の西トップ遺跡の調査修復プロジェクトを2002年から行っています(参考:なぶんけんブログ「アンコール遺跡群西トップ寺院遺跡保全プロジェクトのこれまでの活動」)。2023年2月にはコロナ禍以来約3年ぶりの現地での発掘調査が行われました。最近、西トップ遺跡最寄りのアンコール・トム西門の修復がすすみ、歩行者やバイクが通行できるようになりました。近い将来、車で通行できるようになれば、シェムリアップの街から遺跡へのアクセスはより良くなることでしょう。今は三つある祠堂のうち、中央祠堂が修復作業中のため、観光の際にはあまり近づいてもらうことができませんが、足場が組まれ修復の進む作業風景もおそらく今年までしか見られない貴重な姿。アンコール遺跡に足を運ばれた際には、ぜひ西トップ遺跡へもお立ち寄りください。

 さて、私はふだん、縄文時代のかごや編み物について研究をしているのですが、カンボジア現地ではラピアとよばれる藤の一種を使ったかごが今でも生活の様々な場面で使われています。そして、もとの植物素材の形の名残を残したプラスチックのカゴやザルもあちこちで見ることができます。プラスチック製なのだからどのような形にでも成形できるはずなのですが、実は、地域によって少しずつ形が違い、元の姿を残しているようです。

 ここでは、発掘現場で使われている箕を例にあげてみます。日本の発掘現場でよく見るプラスチック製の箕は、直線的で幅広、全体のラインもまっすぐです【写真1】。ところが、西トップ遺跡で使われているプラスチック製の箕は、全体的に丸みがあって、取り付け式の把手が両側についています【写真2】。これは、今でも街中で売っている箕【写真3】 とよく似ていて、魚獲りや運搬用に使われます。2012年頃までは西トップ遺跡の発掘現場でもラピア製の箕が使われていました(註1)。西トップ遺跡の奈文研現地調査員ロエン・ラヴァッタイ氏に聞いたところ、プラスチック製のものの方が把手がとれにくく、長持ちするので今では現場で使う箕は全てプラスチック製にしているとのこと。材質の違いはあれど、それぞれの地域の道具の歴史をときに残す発掘道具。発掘現場を通りかかることがあれば、ぜひ道具の形にも注目してみてはいかがでしょう。

  註1)独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所 2011 『西トップ遺跡調査報告』奈良文化財研究所学報88, 3頁のFig 4には、2003年の第一次発掘調査当時現役だったラピア製の箕が写っています。現地調査員の方によると、その後もしばらく活躍していたとか。

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【写真1】奈良文化財研究所発掘現場で使われているプラスチック製の箕(高野麗氏提供)

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【写真2】西トップ遺跡発掘現場で使われているプラスチック製の箕

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【写真3】アンコール遺跡東側・プラダック村で売られているラピア製の箕

(企画調整部アソシエイトフェロー 西原 和代)

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