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木簡の削りくずと欠けた文字

2016年6月 

 鉛筆で書いた文字を消したいとき、消しゴムを使って消しますよね。墨で書く木簡でも、一度文字を書いてしまっても消すことができます。文字のある部分を小刀で削り取り、新しい面を出して再利用するのです。消しゴムのカスは黒くまるまってしまうだけですが、木簡の消しカス=削りくずには文字が残っています。文字が残っているということはその削りくずからも情報が引き出せるということですので、大切な資料として保管しています。

 古代に木簡を使っていた場所からはたいていの場合、大量に削りくずが出てきます。文字を消すために削るので、文章の途中であったり、ときには1文字だけだったり、全体の半分だけだったり…。木簡に書かれていた全体像を知ることはなかなか難しくもあります。そのような中でも、長く木簡を見てきた研究員の手にかかれば、読めてしまう文字もあります。

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写真1 文字が半分欠けた削りくず
  (モノクロ写真は赤外線画像)

 

 写真1(左)は右側と上下部分が見つかっていない削りくずです。

 文字の半分が欠けた上、墨が一部消えていますが、それでも、「仕丁一口米一升」という読みで、おおかた間違いないだろうと報告しています。残っている画と、古代によく使われる言葉、その木簡群でよく出てくる言葉、などさまざまな知識と経験とひらめきで、墨の無い部分も読めるのです。

 写真1(右)は右側と上部が欠けている削りくず。残っている画から、どう読めるでしょうか?

 これには「■■一口三升」(■は読めていない文字を表します)と読みをつけていました。写真1(左)と同じような、何か食品の量を書いた削りくずに見えます。

 上記2点とも、30年ほど前のデパート建設に伴う発掘調査で出土した削りくずです。これらの削りくずを保存処理するために見直したところ、写真1(右)の削りくずに接続する削りくずを見つけました。

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写真2 接続する削りくずの発見(赤外線画像)

  

 欠けていた右側が見つかったことにより、「一口三」部分は「事」と読めるようになりました。接続してみると、確かに「一」と「口」と「三」は近接しています。つながってしまえばなるほどと思うのですが、接続前の写真を見てもやはり「事」と読むのは難しそうです。接続の作業はパズルに似ています。木の質感や木目、筆づかいや墨の濃淡が似ているものを見つけて、接続しないだろうかと試してみます。欠けている形も接続のヒントになります。特徴的な形であればさらに見つけやすくなります。

 今回ご紹介したのはほんの一例です。今後もより正確な情報を発信するべく、見直しの作業を続けていきたいと思います。それにしても、3文字が1文字になってしまう、漢字って、削りくずって、面白いですね。

(都城発掘調査部アソシエイトフェロー 藤間温子)