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「自由(フリー)」と「オープン」で広がる新たな世界

2018年10月 

 皆さんは飛鳥資料館の平成30年度春期特別展「あすかの原風景」はご覧になりましたでしょうか?
 その展示室の片隅に、空中写真や古絵図を自由に拡大縮小表示するPCが置かれていたことにお気づきになりましたか?

 この装置は、飛鳥資料館の西田研究員が調査した古地図の画像と現在の風景とを比較できます。古地図には誤差があるので、現在の地図と合うように補正し、国土地理院がWebで公開している空中写真と並べて表示しました。
 展示会場では、誰にでも操作しやすいように、タッチパネル式の大きな画面のPCを置き、自由に触ってもらえるようにしました。会期中には沢山の人に閲覧され、「わかりやすい」と大好評でした。

 実はこの装置は私が作成しました。ITを専門としない、考古学専攻の研究員でも、こうしたものが簡単に作れる時代になりました。これにはITを取り巻く思想と技術のパラダイムシフトが大きく影響を与えています。
 それは、ITの世界における「自由(フリー)」と「オープン」という考え方の広がりや、それに基づくソフトウェアやデータの公開が進んだことによるものです。

 ソフトウェアの面では、古くは1980年代からのフリーソフトウェア(Free Software:自由なソフトウェア)運動の高まりや、1990年代末頃からのオープンソースソフトウェア(Open Source Software)の普及によって、誰もが自由に使うことができるソフトウェアが普及・拡大しました。こうしたソフトウェア群を、その頭文字をつなげて、「FLOSS」(Free/Libre and Open Source Software)や「FOSS」(Free and Open Source Software)と言っています。もちろんその背景にはインターネットの広範な普及があります。近年では、地図や地理情報を扱うことのできる自由でオープンなソフトウェア群(FOSS4G)も日進月歩で開発が進められています(https://www.osgeo.org / https://www.osgeo.jp )。

 一方、オープンデータ(Open Data)をはじめとする、自由に使うことができるデータの公開も進んできています。日本でも、公的機関が公開する、自由に使うことができるデータが2010年代から徐々に増えてきています。今回の装置では、主に国土地理院が公開している地図や空中写真画像を使用しました。国土地理院以外にも、誰もが自由に使うことができる地図を作ろうという世界規模のコミュニティ活動「OpenStreetMap」( https://www.openstreetmap.org / https://openstreetmap.jp )もあります。

 実際に装置で使用した古地図は、諸事情によりWebで公開はできませんが、装置の雰囲気を味わっていただけるよう、古地図だった部分を現在の地形図に置き換えたWebページを作成しました。以下のアドレスにアクセスしてみてください。タッチパネル式の画面を使用されている場合は、指で操作することもできます。このようにWebで簡単に地図を配信できるようになったのも上記のような歴史やその成果と、それを支えてきた先人たちのおかげです。

 なお、閲覧できる範囲は、明日香村の旧川原村を中心とした地域を対象としたものです。
 それでは飛鳥の地図の世界をお楽しみください。

 https://yoichiseino.github.io/asuka/index.html  (奈文研の外のサイトに移動します)

 

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展示室内の風景

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タッチパネル式のPCで古絵図と空中写真を表示

(都城発掘調査部研究員 清野 陽一)

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