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キトラ天文図の金箔をどのように丸形にしたか?

2023年2月

 立春から雨水になり、暦の上では春になった夜空を見上げると、まだ冬の代表星座であるオリオン座が見えています。オリオン座といえば、キトラ古墳壁画天井天文図(以下、キトラ天文図)にも見られることはご存知でしょうか。キトラ天文図の参宿(しんしゅく)という中国式星座は、オリオンの体部にあたります(図1)。写真からもわかるように、キトラ天文図の星々は、丸形の金箔で表わされています。その数なんと約360個です(参考:若杉智宏、コラム作寶樓「キトラ天文図の観測年代に関する「謎」)。今日では、金箔を丸形に取る便利な道具は購入出来ますが、飛鳥時代では金箔をどのように丸形にしたかを考察してみました。

 丸形の金箔といえば、私は大学時代に学んだ截金(きりかね)という技法を思い出します。截金は様々な技法書で紹介されているように、金箔を極細の線状に切ったり、丸形や三角形、菱形などの形に切ったものを貼ることで模様を施す装飾技法であり、平安時代から仏画や仏像の装飾によく使われました。截金は、厚さが1㎛の金箔を4枚~6枚程度、備長炭で熱して貼り合せて、厚みや強度を持たせたものを用います。裁断は焼き合わせた金箔を鹿皮で作った箔盤の上に置き、竹を刃物のように削った竹刀(ちくとう)で切ります。道具類の箔盤や竹刀は、滅多に販売されていなかったり、金額が高いなどの理由から、自分たちで作りました。金箔を線状や三角形、菱形に切るには竹刀を用いましたが、丸形を取るためにはパンチのような道具を購入しました。飛鳥時代に現在のパンチのような道具があるかどうかは定かではありませんが、丸形を取る道具は何かしらあったはずです。

 その時、直線を切る竹刀の作り方を思い出しました。竹を4等分にして、竹壁を削って表皮を刃にしました。ここで、竹を切り分けずに断面の内側を削り、硬い外側を刃にするとパンチのような道具を作れるかもしれないと思い、早速実験してみました。何本か調整しながら作った竹刀は切れ味がよく、多くの丸形の金箔が出来上がりました(図2)。キトラ天文図の金箔をどのようにして丸形にしたかはっきりとは分かっていませんが、これも一つの方法ではないかと考えられます。

 たくさん作ったこれら丸形の金箔を利用し、オリオン座にあたるキトラ天文図の参宿などの星座を描いてみました。金箔で表した星はキラキラと光っています。金箔は変褪色しないので、キトラ天文図の星々が今日も輝いています。皆様、ぜひ、公開中にキトラ古墳壁画の実物を見に来てください。

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図1 キトラ天文図の参宿とオリオン座

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図2 実験の様子

(飛鳥資料館アソシエイトフェロー 王 杰)

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