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年輪を使って木製品のパズルを解く

2018年5月 

 年輪年代学は,狭義には年輪変動を用いた年代測定を指し,年輪が形成された年代を1年の精度で誤差なく特定することができます。わが国においては,年代測定手法として定着していると言っても過言ではないでしょう。しかし,広義には,樹木の年輪成長が地域的な気候要素の影響を受けて変動する特性を生かし,古気候の復元や木材産地の推定をおこなうなどを含む,総合的な学問分野として位置づけられています。

 年輪年代学における年代測定手法であるクロスデーティングは,年輪曲線の照合によりおこないますが,この方法を用いた同一材由来の推定もおこなうことができます。ここでは,都城発掘調査部がおこなった奈文研新庁舎建設に先立つ平城京跡の発掘調査において,一括で出土した斎串をはじめとする木製品群に,同一材の推定に焦点をあてた年輪年代学的分析を取り入れた成果をご紹介します。

 分析対象は,平城京右京一条二坊四坪(平城第530次調査)において一括で出土した斎串と割材です。この分析では,対象とした68 点が4つの同一材由来と考えられるグループに区分され(図1),それをもとにした接合関係を検討するとともに,斎串の原材復元と製作過程を明らかすることができました。例えば図2で示すように,分析対象の同一材関係や,刻まれる年輪の対応関係を手がかりにすることによって,ごくわずかな箇所で接合することが判明するなどの成果を得ることができたのです。みなさんも,ジグソーパズルを解いていく際に,ピースの形だけでなく,絵柄の情報も頼りに進めていくと思います。この分析では,年輪がまさにその絵柄に当たる役割を担ったわけです。

 この研究の出発点は,考古学を専門とする都城発掘調査部アソシエイトフェローの浦 蓉子さんが今回分析対象とした斎串群の整理作業を進める中で,同一形式の斎串の木目が似ていることを客観的に示すことができないかと着想し,年輪年代学を専門とする星野に声をかけたことがきっかけでした。検討を始めた当初は,斎串の同一材関係や制作過程の復元など,ここまで明瞭な成果が導き出せるとは2人とも想像していませんでした。様々な専門性を持った研究者が文化財を対象とした総合的な研究に取り組む奈文研ならではの研究成果を残すことができたのではないかと考えています。

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図1 分析対象の出土状況(同一材のグループごとに色分けして表示)

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図2 分析対象の接合状況

(埋蔵文化財センター主任研究員 星野 安治)

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