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カンボジアのもち米つき

2019年1月 

 みなさんはお正月にお雑煮を召し上がられたでしょうか。私の実家では、近所のお米屋さんからお餅を購入していましたが、今でもご家庭でお餅つきをする方も中にはいらっしゃるのではないでしょうか。

 私が調査に入っているカンボジアは、日本と同じくコメ食文化を持っており、もち米も栽培しています。日本のようについたお餅を食べる習慣はありませんが、一年に一回、日本のお餅つきに似たような光景を見ることができます。

 カンボジアは内戦が終結した1993年代以降徐々に復興し、今では先進国に追いつこうと都市部では大規模開発がおこなわれ、世界文化遺産であるアンコール遺跡群は、連日世界各国からの観光客であふれかえっています。

 ところが、ひとたび市街地を抜ければタイムスリップしたかのように、のどかな農村地帯が広がります。私たちが発掘調査をおこなったクラン・コー遺跡は、コンポン・チュナン州の農村から新たに発見された墓葬遺跡でした。発掘作業をしていると、農作業を終えた多くの村人たちが興味津々の面持ちで発掘トレンチの周りに自然と集まり、即興の現場説明会が始まることもしばしばでした。

 ある年の11月の調査時、水祭りと呼ばれる一年で最大のお祭りの時に食べる「オンボッ」と呼ばれるもち米料理を村の女性たちが協力しながら作っていた場面に出会いました。

 まず、村で収穫したてのもち米を炒ります。この時に使うのが、土製の移動式コンロと土師質土器の丸底壺です。コンロの中に小枝を入れ、火を焚き、そこに籾殻付きのもち米を入れた側面に穴の空いた丸底壺を乗せます。この側面の穴から木の枝を使ってまるでフライパンのように米を炒るのです(写真1)。カンボジアでも都市部では鉄製のフライパンやガスコンロが普及しているので、今ではめったに見る事が出来ない伝統的な方法です。

 次に、炒ったもち米の籾殻を外すと同時に米粒を平たく潰すため、二人ペアになり炒った米を臼と杵でつきます(写真2)。その様子はまるで日本の餅つきのようです。そして、平たくなったお米をざるで振るい、籾殻とお米を分離させて別の容器に入れ、ココナッツまたは塩で味付けをして完成です。かりっとした食感とシンプルな味付けで、手が止まらなくなる美味しさです。

 一年に一回の特別なお祭りのため、昔ながらの伝統的な道具と調理法を用いて、子供から大人まで協力し合いながら食事を作る様子は、歴史を研究する者の一人として勉強させられることばかりでした。

 

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写真1 丸底壺でもち米を炒る様子

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写真2 もち米つきの様子

(企画調整部専門職 佐藤 由似)

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