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平城宮跡のうんち

2019年11月

 今から十年前の2009年1月に、平城宮東方官衙地区の一画で推定十万点とされる木簡が検出された大きなごみ穴が発掘されました。このごみ穴をすべて掘り上げた穴の底から、多量のウリの種を含む小さな穴が、数か所見つかりました。ウリの種の塊とともに、トイレットペーパーとして使われた籌木(ちゅうぎ)と呼ばれる細い木の棒も一緒にたくさん見つかったので、これはうんちを捨てた穴もしくはトイレ穴だろうとすぐに察しがつきました。うんちといっても黒色で粘質な泥の堆積物でもちろん形はありません。うんち本来の匂いはなく、プラスティックが燃えたような無機的な香りが特徴です。

 ひとつの穴で黒色の泥をすべて丁寧に取り除いて、穴の底を詳しく調べてみましたら、なんと直径3㎝くらいで長さ15㎝くらいのU字形の'もの'が横わたっているのが見えました。U字型の内側は、やや色の薄いチョコレート色の軟質なもので充填されていました。そして全体が、その薄い半透明な液体に包まれて、黒くつややかに輝いていました。自分で掘り出したので奈良時代で間違いないのですが、まさに今朝ここで誰かが健康な一本をひねり出したと思いたくなる程に新鮮にみえる'もの'でした。「一本うんちだ!」と叫びますと、発掘仲間は千三百年前のうんちがこんな状態で残っているはずがないでしょうと半信半疑なのです。翌日の土曜は雨予報でしたので放っておくと水で流れてしまいます。とりあえずは無事に取り上げなくてはと保存科学研究室に駆け込み「うんちが出ました!」と叫びました。女性の研究員はちょっと驚いて「それはよかったですね」と言ってくれました。隣がトイレなので便秘が解消したと思ったのでしょう。しかしすぐに対応してくれ、液体窒素で固めて無事に研究室に持ち帰りました。1㎤に寄生虫の卵殻が5千個以上含まれていればうんちという判定基準があります。この'もの'は、なんと2万6千個!正真正銘の奈良時代の一本うんちと証明されたのです。現在平城宮跡資料館で、小学生に一番人気の展示品となっています。

 ところで、このときうんちと一緒に掘り出した五万点を超えるウリの種のなかから充実してそうなものを選んで、発芽させようと様々に工夫してみました。奈良時代のうんちから取り出した種のどれかひとつでも発芽したら、それを野菜作りが上手な職員に託して大事に育ててもらい、うまくいけばウリの実が成るのではないかと思ったのです。それを奈良漬けの製造メーカーに依頼して漬物にしてもらい、平城(なら)漬けと名付けて、当時開幕を控えていた平城遷都祭にあわせて平城宮跡資料館で販売すれば評判になるのではと妄想が止まりません。結果は、残念ながらひとつも発芽しませんでした。ウリの実が若く種が未熟な状態で食べられていたためと、千三百年以上空気に触れていないので、種が呼吸できず死んでしまっているのでしょう。千葉の大賀ハスやエジプトのツタンカーメン王墓のエンドウ豆のようにはいかないものです。しかし、文字通り万に一つでもと、今でも諦めきれずにいます。

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平城宮跡出土のウリの種

(都城発掘調査部主任研究員 国武 貞克

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