【写真1】保管中に劣化が進行した鉄製品
久しぶりに収蔵庫の引き出しを開けると、保存処理をしたはずの鉄製品に大量のさび汁が発生し、遺物が割れて著しく劣化していることに衝撃を受けた経験はありませんか(写真1)。また、展示ケース内で保管・展示していたにもかかわらず、銅製品や鉛製品に緑色や白色のさびが発生し、その原因に疑問を抱いた経験はありませんか(写真2)。
【写真2】展示中に緑色と白色の新たなさびが生じた金属製品
これらの劣化は保存処理の不備によるものと考えられがちですが、実際には展示・保管環境の調整が不十分であったことや、遺物の状態に応じた適切な保存処理法が選択されていなかったことに起因する場合が少なくありません。このような問題に適切に対応するためには、金属製遺物の劣化メカニズムを理解したうえで、遺物の状態に応じた保存処理法の選定と展示・保管環境の整備を行うことが重要です。
本研修では、講義と実習を通じて金属製遺物の劣化メカニズムを学び、その知識を実際の保存管理業務に活用するための考え方と技術の習得を目指します。
【本研修で学ぶこと】
● 遺物の状態に応じた保存方針の立案
発掘後の金属製遺物の劣化リスクは決して一様ではなく、同じ材質であっても保存に求められる処理工程や環境調整のレベルは様々です。個々の遺物の状態を見極め、適切な保存処理法を選定するとともに、厳密な環境管理を要する遺物を判断することで、限られた予算や人員の中でより効果的な保存管理を行うための考え方を学びます。
● 保存処理の委託・管理に必要な基礎知識
保存処理を外部に委託する際には、遺物の状態に応じた仕様書を作成するとともに、処理内容の妥当性を適切に評価することが求められます。本研修では、保存処理業務を円滑に進めるために必要な基礎知識を学びます。
● 展示・保管環境の評価と改善の考え方
保存処理後の文化財を良好な状態で維持するためには、温湿度や空気汚染物質などの環境要因が劣化に及ぼす影響を理解することが重要です。本研修では、金属製遺物に適した展示・保管環境を評価し、必要に応じて改善するための基本的な考え方を学びます。
文化財を守るためには、劣化が顕在化してから対処するのではなく、劣化の発生や進行を未然に防ぐ視点が重要です。本研修が、日々の保存管理業務を見直し、より効果的な文化財保存を実践するための一助となれば幸いです。皆さま、ぜひご参加ください。
令和8年度文化財担当者専門研修「保存科学(金属製遺物)課程」
実施期間:令和8年10月19日(月)~10月23日(金)
募集締切:令和8年7月30日(木)17:00まで
参加資格:地⽅公共団体等の⽂化財担当職員
(埋蔵文化財センター 保存修復科学研究室 主任研究員 柳田 明進)
