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うんこ座りか⁉片膝立ちか⁉-旧石器時代の石器づくりを復元する-

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【画像1】旧石器時代の法華寺南遺跡の復元画(絵:田中さとこ)

 2025年10月18日(土)から平城宮跡資料館で秋期特別展「ナラから平城ならへ-旧石器からはじまる3万年の歴史-」を開催します。特別展では平城宮・京で発見された後期旧石器時代の石器を中心に、飛鳥時代までの出土品を紹介します。

 実は平城宮跡周辺では後期旧石器時代(3万8000~1万6000年前)の遺跡や石器がいくつか見つかっています。特に、法華寺南遺跡の発掘調査では、約3万年前の石器が数多く出土しました。

 【画像1】は特別展の開催にあわせて当時の法華寺南遺跡の様子を復元したイラストです。ここでは、このイラストを作成するにあたって検討したことを一部紹介します。

法華寺南遺跡で出土した石器

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【画像2】法華寺南遺跡から出土した石器の接合資料

 法華寺南遺跡は平城宮跡からみて南東側、現在の国道24号線西側に所在する遺跡です。この遺跡では奈良時代の建物跡を検出した深さから更に下層において、後期旧石器時代の石器が発見されました。

 槍の先端に付けていたと考えられるナイフ形石器などの道具類のほか、道具を作る過程で生じた欠片(剥片や砕片といいます)が出土しています。法華寺南遺跡最大の特徴は、当時の石器を作る技術を読み取ることができる点です。出土した石器同士を繋ぎ合わせることで、どのような手順で石器を割っていたかがわかります。調べた結果、サヌカイトという石材をあらかじめ運びやすい大きさに加工したうえで遺跡内に持ちこんでいたこと、それを素材として更に小さく打ち割って、様々な道具を作ったことがわかりました【画像2】。

 しかし、石器を作る際に素材となる石をどのように手で持っていたのか、打ち割る際の姿勢はどのようなものだったのか、人の身体の動かし方に関わるような細かいことは、石器からだけではわかりません。復元画を作成するうえでこの問題は避けて通れないため、研究員で検討しました。

当時の人たちはどのように石を割っていたのか?

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【画像3】石器の打ち割り方を模索する研究員たち

 特に大変だったのが、作業時の姿勢の復元です。現代では椅子に座って作業ができます。しかし、旧石器時代に椅子はないですし、座ることのできる大きな石なども、どこにでもあるとは限りません。そのため、どのような姿勢で石器を打ち割っていたのか、研究員同士で相談しながら検討しました【画像3】。

 あぐら座りのほか、いわゆる「うんこ座り」である蹲踞そんきょなど様々な姿勢を検討しました。しかし、素材となる石の持ちやすさや、打ち割った際に剥片が粉々になってしまうリスク、自身が怪我をしないための安全性の確保など、全ての要件を満たしそうな姿勢が見つかりません。最後に出た案が片膝立ちです。この状態で素材をももの外側からはみ出るように持って固定してハンマーを振り下ろせば、破損リスクが少ないかつ安全に石器を作ることができそうでした(【画像3】の左側の人物)。

 このような検討を経て、今回は片膝立ちを採用しています(【画像1】の一番左の人物)。これが唯一の正解というわけではありませんが、様々な議論を経て歴史のイメージが作られていくことが今回の検討からわかりました。

 他にも当時の服装や動植物など検討するべき要素が数多くありました。どのようなことを検討したのかについては秋期特別展でも紹介します。今とは全く異なる環境のもとで暮らしていた平城山丘陵ならやまきゅうりょうの人たちの歴史をご覧ください。

 また、10月25日(土)には第133回公開講演会「奈文研の旧石器研究」が関連イベントとして開催されます。

 公開講演会では、ここでお伝えできなかった復元画作成の背景を更に解説するほか、奈文研がこれまで行ってきた旧石器研究の歴史、最新の研究成果、全国の魅力あふれる旧石器時代遺跡などについてお話しする予定です。申込期間は9月19日(金)~10月6日(月)ですので、是非ともお越しください。

(展示公開活用研究室 小原俊行)

展示・講演会のご案内

■令和7年度平城宮跡資料館秋期特別展「ナラから平城(なら)へ-旧石器からはじまる3万年の歴史-」

https://www.nabunken.go.jp/heijo/museum/kikaku/heijo20251018.html

■第133回公開講演会「奈文研の旧石器研究」

https://www.nabunken.go.jp/fukyu/event2025.html

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