なぶんけんブログ|奈良文化財研究所に関する様々な情報を発信します。

万博にむけて醸す酒

未来にむけた古代の酒

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復元須恵器の中で発酵の進むもろみ

 「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに、大阪の夢洲で大阪・関西万博が開催されています。実は奈文研も、この万博で、ある催し物を出すことになっています。テーマは、古代の酒文化「酒と都と須恵器と土師器」によせてでも紹介した古代酒の復元醸造で、オリジナル・ショートムービーの上映やトークショー、古代酒のテイスティングなどを行う予定です。

 お酒に限らず、今を生きる私たちが、なぜ今ある社会の仕組みの中で今風の暮らしをしているのか。現代はもちろん、未来を考えるためにも、過去を知ることは大切です。過去の人々の営みの積み重ねの上に、現代の、そして未来の私たちの社会が組み立てられるからです。お酒に関しても全く同じことがいえます。

復元須恵器と木簡レシピによる醸造

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古代酒の仕込み作業の様子

 お酒の起源は数千年以上の過去にさかのぼりますが、絶え間ない工夫の積み重ねが、幾度もの技術革新を生み、その結果として今日のお酒が存在しています。しかし、その道筋は決して直線的ではなかったはずです。その時々の事情により、その時代に合わなかったがために失われてきた高度な技術も、あったかもしれません。焼き物の甕でお酒を醸す技術も、かつては盛んにおこなわれたものの、現代では忘れ去られつつあるものの一つです。

 私たちは、醸造に使われたと考えられている奈良時代の須恵器を模倣して作成した甕を用いて、長屋王邸宅跡から出土した木簡に記された醸造のレシピに従い、実際に醸造をおこなってみることにしました。奈文研だけではできない、陶芸家や醸造家を巻き込んだ、異分野のエキスパートたちによる共創プロジェクトです。どうです、話が万博らしくなってきたと思いませんか?

甕酒の底深い味わいと面白さ

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試験醸造に用いた復元須恵器

 出来上がったお酒は、これまで飲んだこともないような、とても不思議な口当たりと香り、味を持つものでした。特に、麹を多く使用したことによる重厚な甘みは、砂糖のない当時、お酒が果たしていたであろう甘味の役割を改めて認識させます。そして、試験醸造の過程では、現代のステンレスタンクによる醸造とは、発酵の進み方や微生物のあり方が異なっていることも分かってきました。甕による酒造り、なかなか奥が深そうです。

酒と風土、文化財

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研究集会「長屋王の酒を醸す〜甕酒醸造の学際的プロジェクト」の様子

 こういった取り組みを一般に公開することを通じて、より多くの人々に日本の歴史や文化を知ってもらうことができたら、とても嬉しいことです。長い時間をかけて日本の風土や伝統の中で育まれてきたお酒は、外国の方々から見た日本文化への窓口としても、うってつけのものでしょう。

 今宵の一献、酒盃の水面に、歴史のストーリーを浮かべながら、ゆっくりと楽しんでみてはいかがでしょうか。

国際遺跡研究室長 庄田 慎矢

大阪・関西万博EXPOアリーナでトークセッション及び復元古代酒の試飲を実施します!

詳しくはこちら➡奈文研プレスリリース

平城宮跡資料館では、大阪・関西万博開催記念展示「酒と都と須恵器と土師器」を開催中!

平城宮跡の遺構展示館では、サテライト展示「造酒司Sake no Tsukasa」を開催中!

詳しくはこちら➡平城宮跡資料館公式ホームページ

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