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巡訪研究室(10)埋蔵文化財センター 環境考古学研究室

 環境考古学研究室は、発掘調査で出土した動物の骨などから、過去の自然環境や食生活、生業など、人と自然がどのように関わりながら生きていたのか、その歴史を明らかにするための調査・研究をしています。
 研究室の業務は、(1)出土資料の調査研究、(2)現生標本の収集・公開、(3)研修の実施、に大きく分けられます。

(1)出土資料の調査研究
 これまでの約40年間で、日本全国の189遺跡から出土した約38万点の出土資料(動物骨や貝殻など)を分析・報告してきました。発掘調査で見つかる動物骨の分析を担う研究者は全国的に見ても少ないため、全国の教育委員会や埋蔵文化財センターから相談や依頼があれば、共同で調査や研究をおこなっています。

藤原宮跡から出土したウマの下顎骨を観察する

貝塚の土壌をフルイにかけて見つかったムラサキインコの小さな貝殻片を数える

(2)現生標本の収集・公開
 環境考古学研究室には、骨格標本や貝類標本など約5,000点の現生標本(現在生息している生き物の標本)が所蔵されています。膨大な時間をかけて、収集・製作してきたものです。研究者向けに公開しており、国内外の調査研究で広く利用されています。現生標本のコレクションを充実させ、多くの研究者が使いやすいように整理・管理し、次の世代へ継承していくことも研究室の重要な仕事なのです。
 また、動物の骨を立体的に観察できる三次元画像データベース「3D Bone Atlas Database」を公開しています。研究者向けに作成したものですが、誰でも無料でダウンロードできるので、動物考古学に限らず、美術や医学など幅広い分野で広く利用されています。

いろいろな骨格標本があります

ウシの骨格標本を並べてみました

(3)研修の実施
 奈良文化財研究所では、地方公共団体で文化財を担当する職員(文化財担当者)を対象とした様々な研修を開催しています。環境考古学研究室では動物や植物、地質に関する研修を毎年実施しており、これまでの受講生は800人を超えました。研修の内容を紹介した冊子(『環境考古学研究室の研修紹介』埋蔵文化財ニュース170号)も公開しています。

日本の考古学教育では学ぶ機会の少ない自然堆積(河川堆積)の現地研修

 2019年に、飛鳥資料館で環境考古学研究室の業務を紹介する特別展『骨ものがたり―環境考古学研究室のお仕事』を開催しました。展示は終了しましたが、調査研究の作業写真が多数掲載された展示図録を飛鳥資料館などで販売しています。
 環境考古学研究室で普段おこなっている調査研究の舞台裏を紹介していますので、興味のある方がいらっしゃれば、ぜひご覧ください。

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