奈良市北部にある近鉄西大寺駅の北口には、奈良時代の称徳天皇が造営した尼寺、西隆寺がありました。現在は、サンワシティ、ならファミリーのほか、銀行やテナントビルとなり、往時の姿を目にすることはできませんが、駅前の開発が始まった1971年(昭和46)以来、数度にわたる発掘調査の結果、西隆寺の伽藍がかなりの程度あきらかになりました。
復元された西隆寺の伽藍

【図1】復元された西隆寺伽藍と遺跡解説パネルの位置
中心には金堂とそれを取り囲む回廊があり、金堂の東には尼さんたちが食事をした食堂院、小規模な塔の跡、寺院全体を取り囲む築地塀や塀に開く東門などの跡が見つかりました(図1)。西隆寺は鎌倉時代の初めごろには廃絶したとみられ、その歴史を知る文献資料は極めて少なく、その様子を知る手がかりは、江戸時代に描かれた絵図ぐらいでした。発掘調査によって建物の大きさや位置がわかり、絵図の情報とも一致することから、当時の伽藍をより詳しく想像することが可能になりました。図1に示しましたように現地には遺跡の解説パネルがいくつかあり、その場所にはどんな建物があったのかがわかるようになっています。
重要文化財に指定された木簡
発掘調査では建物の屋根に葺かれた瓦の破片がもっとも多く出土しますが、当時の尼さんたちが使用したさまざまな土器なども目立ちます。井戸やゴミ捨て穴、溝などでは地下水位が高かったことから、木製の食器や祭祀具などがたくさん残っており、尼さんたちの暮らしぶりを垣間見ることもできるようになりました。

【図2】出土した木簡
多くの木製品のなかでも注目すべきは木簡です。細長く薄い板に文字を書いた木簡は、東門の近くからまとまって出土しました。木簡の数は全部で75点、出土してから54年を経て2025年に国の重要文化財に指定されました(図2)。木簡に書かれた内容は、主に西隆寺造営工事にかかわる記録で、工事にかかわった役所の名前、工事への寄付金、工事に携わった人夫への食料支給、建築資材のやり取り、諸国から送られてきた荷物の荷札などがみられます。これらの木簡は、西隆寺の造営工事中に掘られたゴミ捨て穴から出土しました。天皇の寺の造営工事の詳細がわかり、学術的にも高い価値を有する資料です。
平城宮跡資料館冬期特別展&特別講演会「尼寺造営」
2025年12月11日(木)~12月21日(日)の期間、奈良文化財研究所平城宮跡資料館において、今回指定された木簡を展示します。また、展示期間中の12月13日(土)には同資料館講堂において、木簡の内容解説を中心とした西隆寺についての講演会を行います。普段はなかなか目にすることのできない木簡の展示と併せて、講演会を聞いていただければ、その価値をよりいっそうご理解いただけるとおもいますので、ぜひご参加ください。なお、西隆寺全般について知りたい方は下記の書籍をご参照ください。みなさまのご来訪をお待ちしております。
(都城発掘調査部(平城地区)副部長 今井 晃樹)
■平城宮跡資料館冬期特別展「尼寺造営」
会期 令和7年12月11日(木)~12月21日(日)
9:00~16:30(入館は16:00まで)
月曜休館(祝日の場合は翌平日休館)
■特別講演会「尼寺造営」
講演会の詳細は公式HPをご確認ください。
https://www.nabunken.go.jp/fukyu/event2025.html#lecture03
申込期間は、本日11月7日(金)から11月25日(火)24時までとなります。
申込フォーム https://e9cbd0f5.form.kintoneapp.com/public/koenkai202512
■『称徳天皇とよみがえる古代寺院-発掘された西大寺と西隆寺-』
刊行日 令和7(2025)年7月31日
A5版 190ページ
定価 本体2,300円+税
目次など詳細は公式HPをご確認ください。
https://www.nabunken.go.jp/news/2025/07/20250731press.html
・同成社ホームページより各種ネット書店でご購入いただけます。
http://www.douseisha.co.jp/book/b665765.html
・全国の書店、及び下記施設でもご購入いただけます。
平城宮跡資料館 https://www.nabunken.go.jp/heijo/museum/
平城宮いざない館 https://www.heijo-park.jp/guide/suzakumon/izanaikan/
