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巡訪研究室(21)都城発掘調査部(平城地区)遺構研究室

 都城発掘調査部遺構研究室では、古代の都城や寺院の発掘調査で発見された遺構にかかわるさまざまな仕事をおこなっています。飛鳥・藤原地区の遺構研究室を紹介した巡訪研究室(4)では出土建築部材の調査・研究についてお話しました。今回は、発掘調査と復元研究に関する仕事について紹介します。

遺構を読み解く
 遺構とは建物の柱や基礎の痕跡、溝や土坑といった土地に刻まれた痕跡を言います。土器や瓦といった遺物が持ち運びできるのに対して、遺構は持ち運びができない不動産文化財と言えるでしょう。
 たとえば掘立柱建物の柱穴の組み合わせからは、建物の間取りや大きさがわかります。また、軒先からの雨水を受ける雨落溝が見つかれば、屋根の大きさを知ることができます。このように土地に遺された痕跡から、私たちは建物に関する情報を読み解いていくのです。
 遺構から古代の建物を分析する、それが遺構研究室の重要な仕事の一つなのです。

遺跡をはかる
 このような分析のためには、遺構の正確な記録が不可欠です。これによって、異なる地点の発掘調査で見つかった遺構を正しくつなげることができるのです。また、破壊されてしまう遺跡では、こうした記録は遺跡そのものに代わる重要な資料となります。遺構の正確な記録をとるには、発掘調査で見つかった遺構の位置(平面座標)や標高を正確に"はかる"必要があります。
 平面座標を記録するためには、GPS(図1)やトータルステーションと呼ばれる機材を用います。GPSはいわゆるカーナビと同じシステムですが、誤差1cm程度と非常に高精度です。標高を記録するにはレベル(水準器)という機材を用います(図2)。こうした機材を用いて正確な遺構図を作成するのです。
 このように、一見地味ですがきわめて重要な "はかる"作業も遺構研究室の仕事です。

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図1:GPSを用いた平面座標の記録。

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図2:レベルによる遺構の標高の記録。


調査の記録を残す
 発掘調査によって得られた遺構図やそのための測量成果を保存・管理することも遺構研究室の仕事です。遺構図は遺跡に代わる重要な資料ですから、厳重に管理する一方で、使いやすく整理されなければなりません。遺構図は必要に応じて所内で閲覧できるように、整理・分別して専用の保管施設で管理しています。また、これらをデジタルトレースして、報告書などの出版物に掲載する図版をつくったり、調査概要をまとめたデータベースを作成したりするのも大切な仕事の一つです。過去の発掘遺構の図面を統合したりもしています。
 このように過去の調査成果を蓄積し、未来に伝えることも重要な責務と考えています。

平城宮・京の建物を復元する
 巡訪研究室(4)でも述べているように、遺構研究室は建築史学を専門とする研究員が所属しています。正確に記録された遺構図を用いて建物の上部構造を考える復元研究は、私たちの専門性を発揮できる重要な仕事の一つです。
 平城宮跡内に復元された第一次大極殿(図3・4)や、朱雀門、東院庭園、推定宮内省などがこうした研究成果の一部です。このような復元研究の手順をみてみましょう。
 まず、遺構の記録に基づき、出土遺物の知見も交え、遺構や遺構群についての緻密な分析を重ねます。次に、同様な遺構の類例や文献資料などから、遺構の性格を解釈します。そして、現存する奈良時代を中心とした文化財建造物から、建築技法を詳細に検討し、当時の技術者の思考を分析・応用して、建物の上部構造を固めていきます。加えて、瓦の葺きかたや飾金具の形状といった細部にわたる具体的な検討も不可欠です(図5)。このように、さまざまな分野の膨大な研究成果を統合してようやく復元建物ができるのです。
 現在、遺構研究室では第一次大極殿院や、東大寺東塔の復元研究をおこなっています。第一次大極殿院は、第一次大極殿を取り囲む施設で、令和3年3月現在、その南面中央に開く南門の復元工事が進行中です(図6)。つづいて、東楼、西楼、回廊の復元も計画されています。自身が復元研究にかかわった建物が、まさに目の前で組み上がっていく様子を見られるのは、研究者としてこの上ない喜びを感じています。

※ なお、復原・復元の文字は、ここでは一般的な「復元」に統一しております。

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図3:第一次大極殿の遺構。赤が地覆石の据付掘形、青が地覆石の抜取痕跡です。

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図4:復元された第一次大極殿。図3の遺構から研究を重ねて2010年に完成しました。

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図5:第一次大極殿院の飾金具の復元研究。細部にわたる検討を経てようやく復元建物ができます。

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図6:復元研究の成果に基づいて工事中の第一次大極殿院南門。



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