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巡訪研究室(4)都城発掘調査部(飛鳥・藤原地区)遺構研究室

(2024年3月末まで)

 都城発掘調査部では古代の都城や寺院などを中心とした発掘調査を日々おこなっていますが、考古学の専門家だけではなく、文献史学、建築史、庭園史を専門とする研究員も一緒に調査をおこなっています。遺構研究室は、現在建築史を専門とする研究員で構成されており、発掘調査で確認された遺構の検討のほか、現場での測量業務や、出土した建築部材の調査・研究を担当しています。今回は、その中から出土建築部材の調査・研究についてご紹介します。
 出土建築部材とは、発掘調査で出土した建物の柱や井戸枠などの大型の木製品のことです。「大型」としていますが、建築に関わるものであれば、小さくても含まれます。これらの建築部材は、調査終了後に埋め戻して現地保存とすることもありますが、基本的には遺物の確実な保存と詳細な調査研究のため、遺跡から取り上げて研究所に持ち帰ります。
 持ち帰った建築部材は、まずは土を洗い流して表面をきれいにしてから、収蔵庫に設置した水槽に保管します(写真①)。
 建築部材には、いつどこで取り上げたものかわかるように、一点一点番号を付けて管理しています(写真②)。建築部材の状態によっては、不織布で包んで保護します(写真③)。
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①収蔵庫内の水槽で保管される部材。一番長いものは 7.6 mもあります。

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②一点一点ラベルを取り付けて保管しています。

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③傷みの激しいものは不織布に包んで保管します。

 飛鳥・藤原地区の収蔵庫には建築部材を保存するための水槽が26基あります。保存状態を維持するため、普段は空気になるべく触れないように、水面にシートを張り、度々状況を確認していますが、年に一度、水槽内の水を入れ替えたり、調査や保存処理のために建築部材の入れ替えをおこなったりしています。この作業は水槽の中に入っておこなうので、夏の暑い時期に約一週間かけて、学生アルバイトさんや作業員さんの手を借りながら、遺構研究室のメンバー総出でおこなっています。
 水をたくさん含んだ木材はとても重く、なかなかの重労働です。また、貴重な歴史資料であるので、取り扱いには細心の注意が必要です。水槽への出し入れをするだけでも大変な作業です(写真④)。
 ラベルを付けて整理された建築部材は、次に形状や寸法を記録する実測調査をおこないます。建築部材の場合、実測調査も机上ではできないので、10㎝間隔のメッシュを書いた板を床に敷いて、その上に遺物を置いておこないます(写真⑤)。使われた道具の痕跡や、他の木材と接続していた痕跡などを丹念に調べ、記録していきます。(写真⑥~⑦)
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④水漬けの建築部材はとても重く重労働。さらに、貴重な歴史資料なので、キズを付けないように慎重に運びます。

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⑤実測調査の様子。

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⑥藤原宮出土の井戸枠材。表面にチョウナの加工痕跡が残っているのが分かります。

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⑦左図の井戸枠の実測図。寸法や加工痕跡について記録します。

 出土建築部材の研究から、今は失われてしまった古代の建築技術があきらかになることがあります。2005年度に藤原宮の調査で出土した掘立柱の柱根(写真⑧)は、底面に丸太の状態から円柱を造り出すための墨線が残っていました(写真⑨)。墨線は十字に引かれており、その交点には「ぶんまわし」(コンパス)の針穴があります。この点を中心として底面に円を描き、それを基準として表面をはつって、円柱に加工していたと考えられます。従来は、原木の丸太の状態から4角形、8角形、16角形と段階的に加工するといわれていましたが、この方法では、かなり太い原木が必要となります。しかし、原木から直接円柱を造り出せば、材料も無駄にならず、仕事量も少なく済み、合理的といえます。
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⑧飛鳥藤原第138-3 次調査 掘立柱柱根の検出状況。

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⑨同掘立柱底面の墨線(赤外線写真)

 こういった新しい発見ばかりがあるわけではありませんが、出土建築部材の調査では、当時の大工さんの仕事ぶりを間近にみることができます。それだけでも、建築史を専門とする我々研究員はワクワクしてしまいます。


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