早春の平城宮跡では今、突如現れた珍客に人々の関心が集まっています。
その珍客の名前は、山家五位(サンカノゴイ)。ペリカン目サギ科に分類される冬鳥です。2月中旬頃から復原事業情報館の西側の葦原に姿を現し、刈り取りが行われた葦の湿地帯に連日その姿を目にすることができます。
日本では主に北海道、滋賀県、茨城県、千葉県などで繁殖が確認されていますが、生息数が極めて少ないうえに、生息地の湿地帯や葦(ヨシ)原などの減少により絶滅危惧IB類(環境省レッドリスト)に指定されている希少種です。
奈良県が県内に生息する鳥類の生息調査を行い、そのデータに基づき作成された『奈良県産鳥類目録』にもその名は存在しません。つまり、奈良県に於いての記念すべき初観測個体であることは間違いありません。
体長約70cm、体色は黄褐色や黒褐色で様々な形状の縞模様と斑がみられ、くちばしは鋭く、魚、カエル、昆虫類などを捕らえて食します。体色の特徴から擬態の得意な鳥類として知られており、敵が近づくと体を伸ばし静止して周囲の葦と同化させることができます。
なぜこの地に飛来したのかは謎ですが、推測される理由としては、食糧となる魚や昆虫類が豊富であること、葦の伐採により水辺が出現して生息の環境が整ったこと、人の往来がある宮跡内では天敵の猛禽類が近づかないため危険が回避できる、などが挙げられます。
平城宮跡は、全国でも有数の規模の「ツバメのねぐら入り」が観測できる地であり、他に絶滅危惧種の野鳥や小動物も生息しています。歴史的価値はもとより、改めて生物多様性の豊かさを感じずにはいられません。
近い将来、定住したサンカノゴイの繁殖を見守れる日が訪れるかもしれません。
餌を求めて葦原から姿を現したサンカノゴイ(以下同)
タウナギを捕食するサンカノゴイ(以下同)
アオサギとのタウナギ争奪戦(以下同)
撮影場所
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