平城宮跡に穏やかな風が吹き渡り、うろこ雲の流れに秋の到来を感じる季節になりました。
秋の草花たちが競演する道すがら、ふと視線を落とした先に何とも奇妙な植物が姿を現しました。
すらりと伸びた褐色の茎の先に赤紫の筒型の花が一輪、うつむいた角度で咲く様が特徴的な植物、「ナンバンギセル」です。
ナンバンギセルはイネ科の寄生植物で、(「寄生木」2019年7月10日参照)夏の終わり頃から秋にかけてススキやオギの根に寄生して成長し花を咲かせます。
とても風情のある植物ですが、約4,500首の和歌が収録されている「万葉集」ではただ一首「思ひ草」という古名で詠まれています(諸説ありますが、現在はナンバンギセルであるとする説が最有力とされています)。
ススキの下に人知れずひっそりと咲く「思い草」。愛しい人を陰ながらに思いながら詠まれた、まさに「忍ぶ恋」を象徴した歌ではないでしょうか。
◆思ひ草
道の辺の 尾花が下の 思ひ草
今さらさらに 何をか思はむ 作者不詳(巻第十・2270番)
道のほとりの尾花の下の思い草のように
今さら改めて何を思いましょうか 出典:『万葉集』(二)、講談社、中西進