東院庭園の池の北岸には築山石組が復原され、その背景を彩るのはアカマツ、ヒサカキ、イヌツゲ、ウメ、ヤナギなどの奈良時代に植栽されていた樹木たちです。
ヒサカキ1 ヒサカキ2 |
写真は、左右どちらもヒサカキという樹木です。
北側の周遊ルートで同日時、それぞれ離れた場所のヒサカキを撮影したものですが、何かお気付きになるところはありませんでしょうか。
左側は芽吹いた新芽の青々とした色が特徴的です。右側は少し葉の色が薄く、所々黄色くなっているのが分かります。そして、よく見てみますと形状の違う葉が樹木を覆っています。
以下写真の青丸の部分が、上記写真のヒサカキ2です。少し近づいてみましょう。
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細かい枝のように見える植物の正体は、ヒサカキではなく「ヒノキバヤドリギ」というヤドリギ科の寄生植物です。
ヒノキバヤドリギはツバキ科(ヒサカキなど)、モチノキ科、モクセイ科などの常緑樹に半寄生(自ら葉緑素を持ち光合成を行うことができる)して、水や養分を吸収 して生きています。葉は小さく退化し、ヒノキの枝のように見えることから命名されたそうです。
このヒノキバヤドリギ、奈良県のレッドデータブックでは"希少種"に指定されている非常に珍しい植物です。
では、更に接近して間近で観察してみましょう。
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ヒサカキの枝に食い込むようにして寄生し、その部分は少しこぶ状になっているのが分かります。縦に並んだ扁平状のものが枝で、節の所の丸い粒々が葉です。2ミリ程度の果実をつけ、中の種が飛散して宿主の枝に付着して広がるようです。
半寄生とはいえ、ヒサカキからも栄養を吸収しているわけですから宿主としては厄介な同居人といったところでしょうか。
さて、最後にもう一つ別のヤドリギをご紹介いたします。
ヤドリギ |
写真のヤドリギは東区朝堂院付近の桜、ソメイヨシノの樹木に寄生しているヤドリギです。
現在は桜の青々とした葉に覆われているため、よく目を凝らして注意深く観測しませんと通り過ぎてしまうかもしれません。季節は巡り、冬季の落葉時には常緑であるヤドリギはその姿を顕著に現します。冬枯れの樹木の枝に緑の球体を見つけたら、それはきっとヤドリギかもしれません。
『万葉集』にヤドリギを詠んだ一首があります。
◆寄生(ホヨ)
あしひきの 山の木末(こぬれ)の 寄生(ほよ)取りて
挿頭(かざ)しつらくは 千年(ちとせ)寿(ほ)くとそ 大伴家持(巻第十八・4136番)
あしひきの山の梢(こずえ)の寄生木(やどりぎ)をとって
髪に挿すのは、千年の寿を祈ってのことよ 出典:『万葉集』(四)、講談社、中西進
落葉した樹木の中で緑を保つヤドリギは、古代より生命力や神秘性のあらわれであり縁起のよい植物とされてきました。
とても貴重な植物「ヒノキバヤドリギ」、縁起のよい植物「ヤドリギ」、どちらも平城宮跡でご覧いただけます。
梅雨の晴れ間に、ぜひ珍しい植物を探しに平城宮跡にお越しください。
撮影場所 |