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巡訪研究室(6)文化遺産部 建造物研究室

(2024年3月末まで)

 今回紹介する建造物研究室の室員は、組織上は筆者ひとりですが、調査研究をひとりでおこなっているわけではありません。研究所の他部署に属している建造物の専門家と協力して、さまざまな調査研究をおこなっています。
 社寺、民家、近現代建築などの各時代の建物のみならず、時として土木遺産など、人工的な不動産物件を調査研究対象としています。調査の目的は、学術的な成果を出すことだけでなく、文化財保存のための基礎作業という側面がおおきいです。個々の建物の価値をあきらかにする調査、町並保存のための調査、伝統的な建物のリスト作成など、調査目的によってその調査内容も異なります。
 個々の建物の価値をあきらかにする調査の基本は、実測や観察をおこなって、建物を正確に記録することです。現地で、平面図や断面図をスケッチして、そこに測った寸法を書き込みます(写真①~④)。そして、これをもとに机上で正確な図面を作成します。さらに、部材に残るさまざまな痕跡を調べて、建物が改造された歴史や、その建物がかつてどのように使用されたかを探ります(写真⑤)。
 いっぽう、伝統的な建物のリスト作成の作業はいたって地味な作業です。地図に建物の位置を記録し、建物に関するデータを記述し、写真を撮る、という作業を1日に100回前後繰り返します。地図に示された山の中の祠1件を確認するだけのために、山道を登り下りすることもあります(写真⑥)。このような場合、「自分が確認したので、もう他の人は、確認のためにこの山道を登り下りする必要がない。世間のお役にたった。」と自分に言い聞かせています。
 また、海外でも同様な調査をしています。ベトナムではこれまでに4つの集落調査をおこなっています(写真⑦)。カンボジアでは、奈良文化財研究所が修復をおこなっている西トップ遺跡の建築的調査をおこなっています(写真⑧)。
 わたしたちの調査研究の基礎は、現地で、現物を見て記録することです。暑くても、寒くても、場合によっては雨の日でも、どのような状況であっても、目、頭、手、足を一日中フル稼働で同時に動かしています。
 調査成果は写真⑨のような報告書にまとめて、個々の調査研究は完結します。これら報告書は学術成果として重要ですが、コラム作寳楼(2019年10月1日)で説明したように、現場で作成した資料こそが一番大切と考えています。この資料を、きちんと保管して後世に残すことも、わたしたちの役割です(写真⑩)。
 もし、ブログをお読みの皆様が、町や村で、キョロキョロして画板になにやら記入しながら、建物の写真を撮っている作業着の人間をみれば、わたしたちかもしれません。あやしいことはしてませんので、ご安心ください。

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写真① 調査風景:1人が寸法を測り、1人がスケッチした図に寸法を記入します。

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写真② 調査風景:必要な場合には、このようなところまで測ります。


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写真③ 平面図野帳:建物を見ながら、平面図を鉛筆で描き、測った寸法をボールペンで記入します。


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写真④ 断面図野帳:現地で建物の断面図を描くためは、部材の組み合わせ方を理解している必要があるので、平面図を描くより難しいです。


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写真⑤ 調査風景:調査員全員で、部材に残る重要な痕跡を確認しています。

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写真⑥ 神社に向かう山道:神社や民家のなかには、徒歩でしかいけないところが数多くあります。


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写真⑦ ベトナム集落調査風景:ベトナムは、とにかく暑いです。炎天下の調査では、肌を出すと体力を消耗しますので、必ず長袖の作業着を着ます。

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写真⑧ 西トップ遺跡調査風景:日本にはないような石造建造物の調査も良い経験です。


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写真⑨ 報告書:建造物研究室が関わった調査の報告書は、表紙を緑色に揃えています。

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写真⑩ 現地で作成した資料:資料はファイリングして、新庁舎の収蔵庫に大切に保管しています。



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