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「黒い虫の正体は・・・」

2015年4月

「黒い虫みたいなのが出た!」

 2012年6月のある日、奈文研の木器整理室で聞こえた一言です。2009年冬、平城宮東方官衙の調査で、大きなゴミ穴や糞便遺構(ウンチがたまった穴)が見つかりました。その土をコンテナ2800箱分持ち帰り、2015年になった今も木簡などを見つける水洗選別作業をしています。そんなある日の出来事です。

 黒い虫の正体は、アケビの種。それが網のうえ一面に広がり、よく見るとウリの種や他の種もありました。黒い粒の集合体ですからグロテスクな光景でしたが、それ以降、図鑑片手に顕微鏡をのぞきながら数種類ある種が何者かを調べる日々が始まりました。結局出てきたのは4万点に及ぶ種、種、種…。種類もアケビやウリの他に、カキノキ、ブドウ、キイチゴ、ヤマモモ、サンショウ、ナス、サルナシ、シソ、エゴマ、イネなど様々です。これらは、糞便遺構の土の中から出てきたもので、奈良時代の役人が食べたものだと考えられます「天平人の腹をさぐる」作寶樓2013.12.1参照)。

 ただ、この穴から出てきたのは、食べたものばかりではありませんでした。ナデシコやエノコログサなど食用ではないものも見つかりました。これらは周辺に生えていた雑草だと考えられます。この1mmほどの小さな種から、当時の周辺環境まで垣間見ることができるのです。

 別の遺構ですが、多くの木簡が出土した二条大路の濠状遺構でも、たくさんの種が出土しています。この溝から出てきた種の組み合わせは、糞便遺構のものと少し違います。モモ、オニグルミ、アンズ、ナツメ、カヤなどが含まれています。このうち、モモの核は4868点、オニグルミの核は2380点も出土していて、これだけ多くの種が自然に入り込んだとは考えにくく、意図的に捨てこまれたと考えられます。この溝からは、人形(ひとがた)や斎串(いぐし)などの祭祀遺物も一緒に出土していますから、占いや穢れの祓いなどに関係するものも含まれているのでしょう。

 このように一口に種と言っても、たくさんの種類があります。食用植物は当時の食生活復元に一役買いますし、雑草群は当時の環境復元にも役立ちます。溝や井戸などから出土する種は、祭祀行為の一端を示しているものもあります。藤原宮跡や平城宮跡では地下水位が高いため、ゴミ穴や井戸、溝などで木簡をはじめとして多くの有機質遺物が残ります。木簡が重要なのは皆さんご存じのとおりですが、その他のゴミにも多くの情報が詰まっています。たとえ小さな種でも、古代の人々の生活の様子をより豊かに描いていくことができる、私はそう信じています。

 

出土した種.jpg

出土した種出土した種 (1:アケビ、2:ウリ、3キイチゴ、4:エゴマ、5:サンショウ、6:ナス)

 

 

 

 (奈良文化財研究所研究員 芝康次郎