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天平人の腹をさぐる

2013年12月  
 
 2009年の1月、平城宮東方官衙地区でウンチが発見されました。円形の穴がいくつかみつかり掘り下げてみると、クソベラとウリの種がたくさん出てきたのです。ウンチだとわかったのは土の中から多量の寄生虫の卵が検出されたからです。寄生虫のなかには人間のお腹の中で成虫になり卵を産む種類がいます。これらの寄生虫は特定の動植物を食べることで人間に感染します。今回の分析では、野菜、コイ、フナ、アユ、ウシ、ブタ(イノシシ)を食べていたことがわかりました。 
 土の中にはたくさんの種もありました。イネ、ヒエ、アワの穀物、ナス、コナギ、シソなどの野菜、ウリ、キイチゴ、マタタビ、シマサルナシ、クワ、カキ、ヤマモモ、アケビ、ヤマブドウ、クリなどの果実、サンショウ、エゴマ、ゴマなどです。花粉を調べると、ソバ、ナギ、ヨモギ、アブラナなどを食べていたこともわかりました。 

 平城宮でウンチが発見されたのは今回がはじめてでした。発見された場所は中央省庁の一画ですから、ウンチの出所は平城宮で働いていた役人の腹の中と考えられます。彼らが食べていたものは現在の我々とそれほど違いはありません。果実や魚などは周囲の野山で採ってきたものもありますが、栽培、飼育していたものも含まれていたでしょう。 

 もう一つ注目すべきはウシやブタ(イノシシ)を食べていたことです。ウシ・ブタ肉を食べたウンチは鴻臚館跡や秋田城跡でみつかっています。両遺跡は外国人の接待所でもあり、肉を食べたウンチも外国人のものとされています。この背景には古代の日本には肉を常食する習慣がなく、食肉用の家畜は存在しなかったという考えがあります。しかし、今回発見されたのは役所の跡なので外国人がいた可能性は低いといえます。文献によれば、奈良時代の人々はイノシシ、シカをはじめ、ニワトリ、ウシ、ウマ、ウサギなどの肉を口にしており、イノシシ、ニワトリ、ウシ、ウマなどを飼育していたことは明らかです。今回のウンチは奈良時代の肉食を証明したといえるでしょう。 

 平城宮には常時数千人もの役人がいたと推定されています。宮内にはもっとたくさんのウンチが埋もれているはずなのです。ウンチがのこる条件は地下水位が高く空気が遮断され、有機物が分解されない環境です。さいわい平城宮の役所はそうした場所に位置します。したがって、これからもウンチが発見される可能性は高いのです。ウンチを探して腹さぐりを続けていけば、当時の役人が何を考えていたかがわかるかもしれません。

穴の中のクソベラ


ウシ・ブタ(イノシシ)を食べると寄生する虫の卵

 
(都城発掘調査部 主任研究員 今井 晃樹)

 

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