【写真1】高松塚古墳現地でのVR解説
古墳壁画室は飛鳥資料館の新しい研究室として2024年4月に発足しました。キトラ古墳・高松塚古墳の壁画を未来に守り伝えていくため、基礎的な調査研究・保存管理にくわえて、両古墳への関心を深めていただくための公開活用業務にも取り組んでいます。今回は2025年春の壁画公開にあわせて5・6月に実施したイベントについてご紹介いたします。
高松塚古墳壁画修理作業室の公開中の5月19・20日には、VRコンテンツを使用した古墳現地での解説ツアーを実施しました【写真1】。高松塚古墳では、2006年から2007年にかけて、壁画修理のために石室石材ごと壁画を古墳の外に取り出す事業が実施され、古墳は2009年に築造時の姿に復元整備されましたが、現地を訪れても壁画や石室のあった場所を確認することはできません。そこで今回の解説ツアーでは、VRの技術で再現した石室や壁画をタブレット越しに古墳現地で追体験していただくことにしました【写真2】。あわせて、古墳が築かれた当時の景観や、壁画が描かれた石室内に棺が運びこまれる様子なども動画で再現し、飛鳥時代にタイムスリップした感覚を楽しんでいただきました。20分から30分を要して研究員の解説つきで古墳の周囲を巡るツアーでしたが、2日間で200名以上の方にご参加いただき、改めて高松塚古墳への関心の高さを実感しました。
6月6日には第35回キトラ古墳壁画公開関連ワークショップとして「絵師なりきり体験!~キトラ古墳壁画を描いてみよう~」を実施しました【写真3】。キトラ古墳や高松塚古墳は石室内に漆喰が塗られ、その上に顔料などを用いて壁画が描かれています。今回のワークショップは、実際の古墳壁画の描画技法や制作過程を追体験していただくという内容として企画しました。キャンバスには質感の近い漆喰風ボードを使用し、最初にベンガラ(赤い顔料)を塗った念紙(ねんし)を当て、その上から下絵を重ねて壁画の輪郭線をなぞり、漆喰ボードに下描き線を転写します。赤色で転写された輪郭線を筆ペンで清書し、日本画の絵の具で着色するという工程です【写真4】。四神の館にて午前と午後の2部制で実施し、各回の定員は8名でしたが、当日飛び込み参加の方が多く、結果、想定最大人数である計20名の方にご参加いただくことになりました。アンケートでは「飛鳥時代の人の気持ちがわかった」、「見るだけでなく体験できてよかった」などご好評をいただきました。
両イベントとも、飛鳥管理センターの全面的なご協力のもと、盛況のうちに終えることができました。見つかった課題の改善もはかりながら、今後も継続的に開催していければと考えています。発足したばかりの「古墳壁画室」ですが、これから様々な情報を発信してまいりますので今後の展開にぜひご期待ください。
【写真2】VRで再現した高松塚古墳の石室内【写真3】第35回キトラ古墳壁画公開関連ワークショップ
【写真4】日本画の絵の具での着色
(飛鳥資料館古墳壁画室アソシエイトフェロー 濵松 佳生)