写真1 月城C地区で分層する筆者
2024年10月1日から11月29日まで、日韓発掘交流事業により、国立慶州文化遺産研究所に滞在し、発掘調査に参加しました。日韓発掘交流事業は2005年より始まり、コロナ禍での中断を挟みつつ昨年で20年目を迎えました。
10月からの1ヶ月は、世界文化遺産「慶州歴史地域」の一部である、「東宮と月池」の東側に広がるⅡ-ナ地区の発掘調査に参加しました。私は調査区の南で検出していた池状遺構の範囲を確定するために、トレンチの掘削や遺構検出をおこないました。研究員の先生や作業員の方々と、片言の韓国語と身振り手振り、そして翻訳アプリ(これが一番役に立ちました)に助けられながら、目の前から出てくるたくさんの景石と思われる石に悪戦苦闘しました。何度も検出を試みましたが、期間内には終わらず、今後の調査成果に期待することになりました。最後の最後に、池の底石と思われる石を見つけた時、みんなで喜びあったことは良い思い出です。
11月からの1ヶ月は、同じく世界遺産の月城C地区の発掘調査に参加しました。門と推定される場所の近くに設定された土層観察用の畦の断面の分層と実測を、研究員の先生と議論しながらおこないました【写真1】。日本とは違い、固い石がたくさん混じり、乾燥しがちな土層を分層することに苦労しました。作業員の方が持ってきた蒸かし芋がとても美味しく、韓国の厳しい寒さで疲れた体と心を癒やしてくれました。
調査の合間には、慶州文化遺産研究所が主催する国際学術会議への参加や、現地見学会、市民向けの公開活用事業へも参加させていただきました。発掘以外のことでもっとも多くの研究員の方に尋ねられたのは、日本では研究員は研究と公開活用のバランスをどのようにしているのか、ということでした。韓国でも研究と公開活用のバランスに悩んでいる研究員の先生が多いようです。また、慶州文化遺産研究所の文献チームの皆さんと一緒に、木簡や石刻碑文の調査にも同行させていただきました。木簡や東アジアの文字文化に関して交わした熱い議論の数々は、忘れられない思い出の一つです【写真2】。休日は研究所で借りた自転車で慶州市内の遺跡を見学し、慣れてくるとバスや電車で慶州から遠い場所の寺院や遺跡を巡検しました。多くの研究員の先生や研究所の関係者の方々のご支援により、滞在中とても充実した日々を過ごせたこと、ここに感謝の意を記します。
写真2 木簡を巡る熱い議論
(文化遺産部歴史史料研究室研究員/都城発掘調査部考古第一研究室(兼務) 垣中 健志)