2024年11月9日(土)に現地見学会を開催しました。当日はさわやかな秋晴れとなり、1,201名の方々に調査成果をご覧いただきました。
現地に足をお運びいただき、ありがとうございました。
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発掘担当者からのコメント:都城発掘調査部 室長 和田 一之輔
この夏、日本中が記録的な酷暑と残暑に悩まされたなか、われわれは薬師寺の境内地の一角で発掘調査を開始しました。薬師寺は平城京右京六条二坊に位置する大寺院で、1,300年前に建設されました。教科書でも見るような国宝・重要文化財の美術工芸品の数々を擁し、創建時のままの姿で「凍れる音楽」とも評される東塔がよく知られています。寺の中心には金堂と講堂、東・西塔が建ちならび、それらを回廊が取り囲みます。講堂の北側背後には、食堂と十字廊、鐘楼、経蔵等が建てられました。
今回の調査地、秋の現地見学会でご覧いただいたのは、こうした中心伽藍の西北隅にあたる、回廊西北隅と鐘楼です。ここ10年、薬師寺では食堂や十字廊で、あるいは東塔の解体修理にともなって発掘調査を実施してきましたが、回廊では30年ぶり、鐘楼ではじつに40年ぶりの発掘調査となります。この場所はこれまでに発掘調査がおこなわれておらず、地下遺構の状況が不明でした。また、回廊の西北隅あるいは鐘楼の東半部は、薬師寺の伽藍を復元するうえで、とても重要な情報をもっています。これが調査の目的です。
さて、調査をすすめていくと、地面の下1mの深さのところで、回廊のコーナーが姿をあらわしました。基壇と呼ぶ土壇、その上面で礎石を据えた穴が見つかったのです。回廊コーナーの位置を正確に把握できるようになる、重要な発見です。現地見学会に先んじて実施した記者発表では、この穴の位置に人が立って柱の位置をあらわし、回廊コーナーを表現する写真を撮影しました【写真1】。

【写真1】回廊コーナーをあらわす「人柱」写真(北西から)
この撮影にはなんと薬師寺の僧侶の皆さんも急遽快く参加していただき、調査成果をともに喜ぶ瞬間となりました。遺構をわかりやすく伝えたいという想いから半世紀前に生まれた、通称「人柱」と呼ぶ伝統の撮影法ですが、一体感と達成感を生み出す効果もあります。また、回廊の基壇を飾る凝灰岩の石列も良好な状態で残っていました。とくに、回廊コーナーの入隅は、見学会中にライブで研究員が検出したものです【写真2】。

【写真2】回廊コーナーでのライブ発掘(北東から)
掘り当てた瞬間、見学者から歓声が沸きあがり、研究員もガッツポーズで追加の説明をするなど、臨場感あふれるものとなりました。ちなみに、これは私だけではないと思いますが、調査の日々の中で耳にした僧侶の皆さんの流暢で面白い講和に負けないようにしゃべろうと、いつもとは違う緊張感を感じたものです。
現地見学会の後、いよいよ寒さも厳しくなり年の瀬が迫る12月下旬、ようやく調査を終えました。その後も発見はつづき、回廊の基壇では地覆石の上に羽目石が載った状態、地覆石にのこる加工の痕跡、基壇内外縁をめぐる謎の素掘り溝、さらには鐘楼の南階段の発見など、目白押しの内容でした。これらの調査成果は『奈文研報告2025』で公表する予定です。
振り返れば、薬師寺の壮大さを感じるばかりの4ヶ月間でした。発掘調査成果をもとに伽藍の復興・整備がさらにすすむことを期待するとともに、拝観者の皆さんをはじめ日本中いや世界中がこの歴史を感じられる、そのお手伝いができたことを只々嬉しく思います。