写真1 会場の様子
保存修復科学研究室では、保存科学分野に関する意見交換や幅広い情報交換をおこなう場として保存科学研究集会を開催しています。今年度は、日本木材学会木質文化財研究会と合同で「木質文化財の保存修復に関する新たな視点・最近の取組」をテーマに、奈文研本庁舎大会議室を会場として2024年12月14日(土)に研究集会を開催し、全国から多くの方々にご参加いただきました(写真1)。
木質文化財研究会では"主要な構成材料として「木」に由来する材料が用いられている文化財"を木質文化財と呼ぶこととしています。本研究集会でもこれに倣って、考古遺物のみならず木造建築・木彫像・民具・沈没船・漆なども対象に、それらの保存・修復に携わる研究者からご講演をいただきました。
【講演者・講演タイトル】
・藤井義久(京都大学)「木質文化財における生物劣化と新規な対策手法」
・田鶴寿弥子(京都大学)「文化財の樹種調査結果からみつめる人と木の歩み」
・杉山智昭(奈良大学)「木質文化財「活用」の現場を支える保存科学 ~アイヌ民具と沈没船資料を中心として~」
・片岡太郎(弘前大学)「X線CTによる遺跡出土漆製品の構造解析の課題と展望」
・楊曼寧(奈文研)「出土遺物の保存処理における漆塗膜の変形メカニズムの検討」
・中尾真梨子(奈良県立橿原考古学研究所)「水浸出土木製品の乾燥剤凍結乾燥法 ~これまでの研究と経年変化について~」
・松田和貴(奈文研)「出土木製品の保存処理における新たな薬剤含浸手法の試み」
保存科学研究集会において、主なテーマとなる文化財の材質として「木」を取り上げるのは2015年度以来のことであり、近年は木質文化財の保存修復に関する技術も大きく進歩していることから、各講演ではそうした最新の研究成果や実践的な取り組みをご紹介いただきました。
講演後の総合討議では、各分野の研究者や木質文化財の保存に携わる自治体の担当者などから質問やコメントが寄せられ、活発な議論がおこなわれました。また、前日の12月13日(金)には、木質文化財研究会による行事として、なら歴史芸術文化村(天理市)の文化財修復・展示棟の見学会も開催され、参加者から好評でした。
今後も様々なテーマで保存科学研究集会を開催していくことで、関連分野の発展につなげていきたいと考えています。
(埋蔵文化財センター主任研究員 松田 和貴)